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『ちーちゃんは悠久の向こう』という最高の鬱小説

鬱小説を紹介をします。

鬱小説というのは酷く曖昧な言葉なので、自分の考える鬱小説については以下をご参照ください。端的に言えば後味悪いものが大好き。




あらすじ

「ちーちゃんこと歌島千草は僕の家のごくごく近所に住んでいる」――幽霊好きの幼馴染・ちーちゃんに振り回されながらも、「僕」の平穏な日常はいつまでも続くはずだった。続くと思っていた――あの瞬間までは。

怪異事件を境に、ちーちゃんの生活は一八〇度転換し、押さえ込んでいた僕の生活の中の不穏まで堰を切って溢れ始める……。

新風舎文庫『ちーちゃんは悠久の向こう』あらすじより抜粋



構成要素

ホラー ★★★★★★☆☆☆☆
青春  ★★☆☆☆☆☆☆☆☆
恋愛  ★★★★★★★☆☆☆
友情  ★★★★★★☆☆☆☆
鬱   ★★★★★★★★☆☆

※あくまで個人の感想です


概要

ライトノベル、ゲームの脚本等でご活躍中の日日日先生のデビュー作。
正式なジャンルはジュブナイル・ホラー。
つまりホラー小説です。

主人公は幼馴染からのみ「モンちゃん」と呼ばれる久野悠斗。
そんな久野くんの幼馴染の女の子、ホラーが大好きな「ちーちゃん」こと歌島千草。
この二人が中心となって物語は進みます。

最初から最後まで、薄暗い雰囲気が漂う、全体的に湿り気を帯びた作品ですが、それでも1から100まで地獄のような気分を味わうというわけではないので、余計にあの終わり方がクるというか……。
絶妙なバランスの作品だと思っています。


作品の魅力について

①テンポの良い文章

「読みたくなる文章」の重要なポイントとしてリズミカルでテンポの良い、口に出したくなるような文章というのがあると思うのですが、本作品は最初から最後までまさにそんな文章で成り立っています。

 ちーちゃんこと歌島千草はちいさなころから幽霊とか妖怪とか、そういう禍々しいものにときめいてしまう難儀な性質を持っていた。道端にお地蔵さまを見つけるとどこからともなくトンカチを持ちだしてきて、いきなし地蔵を粉砕して『バチが当たるかな』とかわくわくしてしまうようなやつだった。

角川文庫『ちーちゃんは悠久の向こう』本文より抜粋

ほら、なんだか、口に出したときに言いやすいなあという印象を受けませんか。
特に作中で何度か出てくる「ちーちゃんこと歌島千草は~」から始まる部分。この構文がとても頭に残りやすくて大好きです。


②鬱屈とした日常下にある主人公と非日常を望むヒロイン

主人公の久野悠斗くんは家で虐待を受けています。
理不尽な暴力、怒鳴り声、食事もまともにできず、月末公園の水やらスーパーの試食やらでしのがなければならない始末。数日の絶食には慣れているとまで言う。両親が喧嘩をしている間は見つからないように必死で隠れないと、ストレス発散の捌け口にされると経験上理解している。

そんな彼の、普通の高校生とは言い難い非日常的「日常」。

幼い頃からオカルトの類が好きで、幽霊を見ることを夢見るちーちゃんが望む「非日常」。

この対比が物語の醍醐味となってきます。

……実はちーちゃんは彼が虐待されていることには気が付いているのですが、久野くんは隠せていると思っているし、ちーちゃんが彼を直接助けることもできず、そんな自身を情けない卑怯者だと罵りながらも、知らないふりをしながらお弁当を作ってきてあげたり誕生日には服をプレゼントしてあげたりしています。

ちーちゃんは久野くんの「日常」の希望で。
ずっと一緒にいるのが当たり前。
これからも一番大切で、大好きな「友達」。

でも、そんなちーちゃんが望んでいるのは「非日常」。
それにちーちゃんから彼に対する感情は……。

そんな二人が、徐々に徐々に崩れていくその様は、まさにホラー。
日々の小さな希望すらも失われていく。陰鬱としていく。救いがどんどんなくなっていく。
そんな息苦しさを、味わうことが出来るのです。


③結末

私がこの作品において最も好きなシーンはラストシーンです。
これは流石に書いたらネタバレ甚だしいので書けません。
是非読んでください。

想定外の出来事と、主人公の一人称視点での地の文だからこそ伝わる驚愕、絶望、ずっとずっと、終わらない事。変わらない事。
一番のホラーシーンが凝縮されており、主人公と共にぞっとすること間違いなし。

この作品を「鬱小説」と私が認定した理由の全てが詰まっています。



余談

私は幼い頃にこの作品と出会いました。
何となく立ち寄った、地元田舎の小さな古い本屋さん。
そこで購入したのがきっかけでした。

本作品は出版元が倒産し、絶版状態となっていたのが角川文庫から復刊したという経緯があるため、新風舎版と角川文庫版が存在します。
私が最初に手にしたのは、新風舎版でした(その後しばらくして角川文庫版も購入しました)。
今思えば運とタイミングが良かった。

私はこの作品が大好きです。
幼い頃に読んだ小説の中で一番好きです。
文章があまり固くも小難しくもなく、拙いわけでもなく、長さも短めの中編といった程度。
そのおかげか、幼い私も楽しく読むことが出来ました。

今でも何度も読み返しているし、やはり成人後に読むと今の日日日先生の作品の文章構成や単語選びとの違いや若々しさといった部分が新たな発見としてあったりします。なんとこの作品高校生の時に書かれたのだとか。天才か?
しかし変わらないのは、「この結末が大好きだ」と心地よい余韻に浸れることです。

今思えば、ホラー小説や鬱小説が好きになった一番大きなきっかけだったのかもしれません。
あとヤンデレ(先天的後天的問わず)。


さくっと読むことが出来る鬱小説やホラー小説、ヤンデレキャラや厭世的なキャラがお好きな方は是非お手に取ってみてください。


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