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『82年生まれ、キム・ジヨン』


男尊女卑に彩られた個人ヒストリー

2023年に5紙に掲載された本の2冊目は韓国の小説です。

キム・ジヨンはタイトル通り、1982年生まれの女性です。2023年現在、40代前半ということになります。

姉と5歳年が離れた弟がいます。母が3番目の子を身ごもった時、周囲は今度こそはと男の子を期待しました。しかし、3人目も女の子でした。

ここから先は書籍の引用です。

 「もしも、もしもよ、今おなかにいる子がまた娘だったら、あなたどうする?」
 夫は壁の方へ寝返りを打つと、言った。
 「そんなこと言ってるとほんとにそうなるぞ。縁起でもないことを言わないで、さっさと寝ろ」
 母は下唇を噛み、一晩じゅう声を殺して枕がびっしょり濡れるまで泣いた。朝になると唇がぱんぱんに腫れて口が閉じられず、つばがだらだら流れ出てしまうほどだった。
 そのころ政府は「家族計画」という名称で産児制限政策を展開していた。医学的な理由での妊娠中絶手術が合法化されてすでに十年が経過しており、女だということが医学的な理由ででもあるかのように、性の鑑別と女児の堕胎が大っぴらに行われていた。   一九八〇年代はずっとそんな雰囲気が続き、九〇年代のはじめには性比のアンバランスが頂点に達し、三番め以降の子どもの出生性比は男児が女児の二倍以上だった。母は一人で病院に行き、キム・ジヨン氏の妹を「消し」た。それは母が選んだことではなかった、しかしすべては彼女の責任であり、身も心も傷ついた母をそばで慰めてくれる家族はいなかった。
 何年か過ぎるとまた子どもができ、男だったその子は無事に生まれてくることができた。それが、キム・ジヨン氏より五歳年下の弟だ。

生まれてきた弟は、家庭で特別に大事に、わがままに育てられます。そうした社会の中で生き、社会人となっても男性中心社会の不条理にさらされたキム・ジヨンですが、理解のある男性と結婚します。

理解があるはずだったのですが、実際には古い因習を引き摺る親世代との軋轢もあり、夫も救いの手を伸べてはくれず、ついに精神的に壊れてしまいます。

小説は、ジヨン氏の生い立ちと、壊れるに至る道筋を、韓国の男女の社会的格差に関する実際の統計をふんだんに紹介しながら、追いかけます。

1982年は、私(以下、評者)は高校生でした。韓国がこんな社会だったとは、当時はもちろん、この本を読むまで知りませんでした。

小説が終わっても現実は終わらない

小説を読んでも、終わりではありません。

「著者あとがき」「日本の読者の皆さんへ」、「文庫版に寄せて 著者からのメッセージ」が続き、さらに評論家による解題と女性活動家による論評、「訳者あとがき」と「文庫版訳者あとがき」でようやく、本一冊が終わりとなります。

それぞれの筆者は全部女性で、この本がいかに韓国社会に一石を投じたかを教えてくれます。おそらく、韓国フェミニズムのバイブルのような位置づけなのだと思います。

そして、フェミニズムの高まりに対抗するように、「反フェミニズム」の勢いも増しているのだとか。

個人的な感覚だと、日本の1980年代の雰囲気とは違っているとは思いますが、高校の前夜祭のファイヤー・ストームは女人禁制だったなあと思い出しました。

出身校の現役校長先生に聞いたら、いまも女子禁制なのとか。ただ、「『なぜ女子は参加できないのか』と疑問を持つのは男子先徒の方が多い」のだそうです。

5紙に書評が掲載された本

2023年

2022年

2019~2021年


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