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『聞く技術 聞いてもらう技術』

2023年で初めて5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)全紙に書評が掲載された本です。

著者は臨床心理学者、臨床心理士・公認心理師だそうで、心の専門家です。

文章がとても柔らかくて、優しく語りかけられているような心地よさがあります。お人柄なのか仕事柄なのか、「この先生にはなんでもお話できそうだ」、と思わせるような文章です。まずそこに感心しました。

章立てが独特です。

「はじめに」に続いて、「聞く技術 小手先編」が始まり、「第1章 なぜ聞けなくなるのか」、「第2章 孤立から孤独へ」と続きます。

この後、「聞いてもらう技術 小手先編」、「第3章 聞くことのちから、心配の力」、「第4章 誰が聞くのか」と続きます。

まず「小手先」から入って、それぞれの技術の奥義を各章で解説しているのかというと、そうではありません。「奥義」はどこにあるかというと、「あとがき」にです。

「あとがき」のサブタイトルが、「聞く技術 聞いてもらう技術 本質編」なのです。変な構成です。

しかも、奥義はとてもシンプルで、

聞く技術 本質編
「なにかあった?」と尋ねてみよう。
どうしてもそう言えないときには、聞いてもらうから、はじめよう。

聞いてもらう技術 本質編
「ちょっと聞いて」と言ってみよう。
今はそう言えないときには、聞くところから、はじめよう。

でおしまいなのです。

といって、読んでいて違和感は全然ありません。むしろ、改めて最後にずばりと言い切ったという感じがします。

なぜかというと、本書が最初から最後まで一貫しているのは、「聞いてもらって、聞いてあげて、聞いてもらって・・・・」という連鎖こそが大事だと言うことです。

第3章にはこうあります。

メンタルヘルスケアというと専門家が特別なことをするイメージがあるかもしれない。だけど、本当の主役は素人だ。実際、私たちが心を病んだとき、最初に対応してくれ、そして最後まで付き合ってくれるのは、専門家ではなく、家族や友人、同僚などの素人たちではないか

専門家を引っ張りだす事態になる前に、周りの人たちで解決するのが一番、という声が聞こえます。そのためには、日ごろから「聞いてもらって」「聞いてあげる」コミュニケーションの回路が必要だと、言っているのです。

本書に、専門家にありがちな押しつけがましさや上から目線がまったく感じられないのは、この本そのものが一種のカウンセリングになっているからでしょう。自分や他者の心の問題に関わりながら生きていくためのスキルを、噛んで含めるように、普通の人にカウンセリングしているのだと思います。

なお、「聞く技術」「聞いてもらう技術」の「小手先」はカウンセラー15年の経験が生んだテクニックなのだそうですが、実践的ですぐに役に立ちそうなので以下列挙しておきます。

「聞く技術」

  1. 時間と場所を決めてもらおう

  2. 眉毛にしゃべらせよう

  3. 正直でいよう

  4. 沈黙に強くなろう

  5. 返事は遅く

  6. 7色の相槌

  7. 奥義オウム返し

  8. 気持ちと事実をセットに

  9. 「わからない」を使う

  10. 傷つけない言葉を考えよう

  11. なにも思い浮かばないときは質問しよう

  12. また会おう

「聞いてもらう技術」

日常編

  1. 隣の席に座ろう

  2. トイレは一緒に

  3. 一緒に帰ろう

  4. ZOOMで最後まで残ろう

  5. たき火を囲もう

  6. 単純作業を一緒にしよう

  7. 悪口を言ってみよう

緊急事態編

  1. 早めにまわりに言っておこう

  2. ワケありげな顔をしよう

  3. トイレに頻繁に行こう

  4. 薬を飲み、健康診断の話をしよう

  5. 黒いマスクをしてみよう

  6. 遅刻して、締切を破ろう

緊急事態の時は、かまってちゃんと思われてもいいので、SOSを出そうということなんだと思います。

5紙に紹介された他の本

2023年

2019年から2022年


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