[読書メモ] 伝える力 / 池上彰
伝える力
一般の人に判りやすい説明をされることで有名な池上彰の「伝え方」を紹介するビジネス書。物事の伝え方そのものに加えて、伝える上で前提となるマインドセットについても紹介されている。また、話すことだけではなく聴く・書くことも含んだコミュニケーション全般のノウハウを得ることができる。著者が体得したスキルは、NHK所属時代に担当されていた「週刊こどもニュース」の経験が非常に活きていると感じる。
・理解:物事の道理や筋道が正しくわかること
・道理:物事が妥当で合理的であるとされる原則や法則、あるいは正しいとされる基準や理念
・筋道:物事を論理的で整然とした順序や構造に沿って話す、説明する、あるいは考えること
しっかり理解できていないときは、同じ物事を説明しようとしているときに相手によっては理路整然と説明が出来ない。
しっかり理解したいときは、色々な相手(家族や子供や上司)に説明するシーンをイメージしながら理解すると良い。
また、話すと長くなることは短くまとめて「一言で言うと〇〇」と言い換える練習をしたり、「〇〇みたいなもの」というような簡単な物事に置き換える練習をすると良い。
建前論だけの論述や会話は逆に信用が得られないことが多い。正論だけで人は共感できない。「建前上はxxだが、本音はxxです」と言うように、規則やルールに寛容な面がある方が人は共感しやすい。
このような人間心理は、各種の行動経済学やAIによるコミュニケーション進化にも応用できそう。
・演繹法:一般的な原則から特定の結論を導く手法
・帰納法:具体的な観察から一般的な法則を導く手法
資料や報告書をまとめるときには、「ゆるやかな演繹法」が良いと筆者は述べている。具体的な事実情報を収集して結論を導く「帰納法」では、調査する量と質の両面で膨大な時間がかかる。一種の研究のようになってしまう。
「ゆるやかな演繹法」では、結論の仮説を立ててから「帰納法」的な事実情報を集めるので調査する量が少なくて済むし、情報の質も追及して調査ができる。
但し、仮説を立証しようとするあまり、事実情報を捻じ曲げてしまわないように注意する必要がある。
書いた文章の見直しは、別の媒体で確認することは大事。プリントアウトも一つの手段だが、パソコンで作成した原稿をスマートフォンやタブレットで見直すと視点が変わって良い見直しができる。
また、夜に書いた文章は朝に読み返すと違和感が生じることが多いので、「寝かせる」ことは文章を見直す際に効果的。
英語や略語は、万人に理解してもらうことが出来ない。相手にしっかり伝えたいときには、略語は元のフレーズに戻して説明すること、英単語は日本語訳を添えて説明することを徹底したい。
特に「~的」は現代人が良く使ってしまう言葉。口語では「~チック(tic)」のような形容詞に相当する。使い方によっては、難しい言葉を簡単な言葉に置き換える時に効果を発揮するケースもあるが、具体的な性質などを抽象化してしまう問題点について筆者は言及している。
難しい単語を並べ立てる話し手に対しては、普通の人は良い感情を持たない。
特に会話の中での四字熟語は馴染みのない音として発声され、相手が聞き取れないケースも多発する。漢語や四字熟語は、ほぼ同じ意味で一般的な単語に置き換えて話す方が無難。
・順接の「が」:ある出来事や事実が前の出来事や事実に続く様子を表す接続関係
・逆接の「が」:二つの事柄や状況が対立することを示す接続関係
・曖昧の「が」:逆接と順接のどちらにもとれる接続関係
いずれの接続関係の用途で「が」を使う場合においても、文章が長くなったり冗長になりがち。また、「が」を多用することにより全体的に文章がコミットされていない(発言や作文の責任を回避している)印象を受ける。
これは、自分もかなりの頻度で使ってしまっている。特に早く結論を出したり、話をまとめたいときに使ってしまうことが多い。
筆者は「いずれにしても」は、それまでの論理の流れを否定しかねないという注意喚起をしているが、実際の会話では論理否定と思われないケースも多いように感じる。受け手による「いずれにしても」に対する言葉の捉え方の感覚は確認してみる必要がありそう。
絵文字以外は、接続詞・接続助詞や繋ぎに使う副詞であることが興味深い。どれも文章が長くなったり冗長になることが多い。一文一文を自信を持って言い切るためにも、これらの言葉や文字は使いすぎない方がよい。
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