見出し画像

スタートアップが組織崩壊するたったひとつの理由。

スタートアップの急成長過程でよく耳にする「組織崩壊」というワード。実際の「崩壊」における程度はそれぞれだとは思いますが、要はスタートアップにおける重要リソースあり、全ての土台である"チーム"が機能不全に陥る状態を指しているのだと思います。

当然、100社あればそんな崩壊の程度は100通りあるとは思いますが、個別事象の地雷とも言える特殊解が、他社における学びにはならないのは自明なので、それぞれ紐解いて紹介する価値は低いです。であれば、多くの"崩壊"事例に共通する「最大公約数的な罠」を明確にし、事前にスタートアップの経営者がインストールしておくこと自体は、大変意義のあることだと思います。

そこで、実体験と多くの並走体験を通じて、現時点で私があくまで個人的に考察する「スタートアップが組織崩壊する最大公約数的な罠」が何なのか、自戒の意味を強く込めつつ、なるべく簡潔に書き起こしておきたいと思います。

スタートアップ経営者が扱う膨大な変数量

特に創業期、急成長期でフェーズとしては「シード」「アーリー」と呼ばれるようなスタートアップの創業者、経営者が扱う変数はとにかく膨大です。マーケットリサーチ、事業戦略、ファイナンス、プロダクトグロース、ビズデブ、マーケティング&PR、採用…etc

特に起業家は良い意味で「オーナーシップの塊」であり、ありとあらゆる物事にハンズオンで精通し、行動し、PDCAを繰り返して結果鬼のように働くのが普通です。これは、構造的に言えば「スタートアップ経営において扱う変数多過ぎ」問題です。それぞれの事業ドメイン、チーム、社会&時代環境を前提にした超絶難解な連立方程式の解を、暗黙ながら手探りで、必死にあらゆる変数をチューニングしながら最大化しようとするのが、このフェーズの経営レイヤーです。

PMFし、チームメンバーへの権限委譲が進んでいる状態というのは、この暗黙の連立方程式が明示的な公式として社内で定義され始め、かつそれぞれの変数のチューニングを役割分担できている状態とも言えるでしょう。それまでは、まるで無数の手から次なる1手を探す棋士のようなセンスがスタートアップの経営者に求められるのだと思います。

そして見落とされる、組織崩壊につながる最重要変数

スタートアップの経営者が日々もがき苦しみながら取り組んでいる「何か」を「連立方程式」というボキャブラリーで説明しました。

求める解がその組織における「成功」や「ミッション・ビジョンの実現」だとした時に、解を最大化させる上でポジティブにもネガティブにも最もレバレッジの効く変数は何でしょうか。

先に結論から書くと、私はそれを「やる気」だと考えています。

一転して稚拙な手触りとなる「やる気」というボキャブラリーですが、この空気のように目に見えないことこそ、人的資本を扱う上で最重要なレバーとなります。

また、そもそも上記連立方程式においては様々な不安定変数があります。特にここでは市場などの外部環境に起因する、極めてアンコントローラブルな「環境変数」は除外して考察します。

つまり、自らの手でコントロールやチューニングが可能な「戦略変数」のみにフォーカスした場合、最もレバレッジが効くのが「人」であり、「チーム」です。ゆえに、多くのスタートアップが「採用」に力を入れるわけです。

さらにここで「採用」という変数に力を入れる理由と、「やる気」が重要な理由を同時に見ていきましょう。

このnoteでは何度も書いていますが、「個」のパフォーマンスは最も単純化すると次の公式でモデル化できます。

個のパーフォマンス = スキル × やる気

これは「個」のみならず「チーム」でも同様です(実際チームの場合もう少し変数が増えて複雑で、ゆえに"チーム"を作ることがいかに重要かはあとnoteが何本も書けるのでここでは除外します)。

「採用」というレバーをチューニングするということは、要はこの「スキル」という変数をチューニングするに等しいです。「優秀な人材の採用」がいかにスタートアップのグロースにクリティカルかがもはやコンセンサスになっているので、誰も異を唱える人はいないでしょう。

逆説的に言うと、その「採用 = スキル」への偏重がハイライトとなって、「やる気」という変数が霞む、もしくは無視されてしまっているケースが散見されます。

つまり、端的に言うと「組織崩壊」という状態は、個々のメンバーやチームの「やる気マネジメント」に致命的な失敗をした結果と言えるでしょう。結論から逆算すればシンプルですね。組織における大部分の「やる気」が何らかの理由で限りなくゼロになってしまったら、組織は機能不全に陥ります。

「やる気」より「スキル」が重視されてしまう圧倒的な理由

こういった現象が起きてしまうのは割とシンプルです。順番に3点で説明するのならば

  1. スタートアップの経営者が扱う変数多過ぎ

  2. 採用における「スキル」はある程度可視化されている

  3. 「やる気」は目に見えない

そもそも「気」みたいな目に見えないものを取り扱うこと自体が難しく、残念ながら人によって得手不得手があります。また、スタートアップの起業家や経営者であればこの「やる気変数」につまづくのはある種仕方がない問題とも捉えています。その理由としては

  1. オーナーシップの塊であり、どうしたってマイクロマネジメントになる

  2. 繰り返すが扱う変数が多過ぎて目に見えない「やる気」をケアしてられない

  3. そもそも「やる気マネジメント」の重要性を認知していない

2周目や3周目の経営者の打率が高いのは、1周目で「組織」に関して痛い目に遭っているから、採用、カルチャー、権限委譲…の観点で特に上記「3」を認知上事前に回避できているというのが、実は重要な示唆だと感じています。そう、そもそも「やる気マネジメント」は難しいのです。

プロダクトや事業が伸び続けていれば「KPIの伸び」によって誤魔化せますが、これが鈍化したり成長の踊り場に来ると、それまでノーフォローでも何とかなっていた「やる気」変数のマネジメントコストが途端に増大します。組織・チームマネジメント経験の少ないスタートアップの起業家や経営者がこれに直面したら、スタートアップレースにおいて相当な足枷になることは火を見るより明らかですね。

ゆえに2周目や3周目の起業家は、単純に優秀な人を採用するだけでなく、カルチャーフィットやその後の「チーム作り」に長けている、もしくは長けた人を脇に固めることができているのだと思います。

人という機関は、ソフトウェアと異なって同じ同じインプットでも「やる気」によって異なるアウトプットを出します。昨日「10」だった「やる気」という変数は、翌日簡単に「0」にも「100」にもなります。ましてこれが「チーム」という掛け算になるほど、その事業インパクトがいかに大きいかは小学生でも分かるでしょう。

組織を「デモチ」させるアクションリスト

このように不安定で曖昧な「やる気」を原動力にした機関という前提の「組織」において、少なくないスタートアップの起業家・経営者が
「やる気マネジメント」で壮大にコケてしまいます。その結果、チームが陥ってしまうのがいわゆる「デモチ(demotivation)」です。

demotivation|lack of interest in and enthusiasm about your work

Cambridge Dictionary

個の「デモチ」スパイラルと、チーム間における「デモチ」の相互作用によって、最終的にそれは組織的「不満」や「怒り」となって全体を「崩壊」させる事態へとつながるわけですね。

では、具体的にどんな行動や言動が「デモチ」につながるのでしょうか。10つの代表的なアクションリストにまとめました。

  1. マイクロマネジメントする

  2. 権限委譲しない

  3. 梯子を外す

  4. WHYを共有せずWHATだけ落とす

  5. 言行一致、しない

  6. レポートラインを飛び越える

  7. 成果を承認しない

  8. むしろ成果を自分のものにする

  9. パワハラ的につめる

  10. 失敗を認めない

重要なのは、多くの起業家・経営陣がこういった行動を無意識的にしてしまっているということです。つまり、悪気はないわけですね。分かりやすくいわゆる"ダメな上司の行動リスト"的にしましたが、これはあくまで受け取る側の印象論です。繰り返しになりますが、彼らの前提は

・オーナーシップの塊であり、どうしたってマイクロマネジメントになる
・扱う変数が多過ぎて目に見えない「やる気」をケアしてられない
・そもそも「やる気マネジメント」の重要性を認知していない

こんな感じであり、視界不良で荒れ狂う「スタートアップ海峡」で見えない航路を見出しながら、必死で前へ前へ進もうともがき苦しんでいるのが普通です。全てが初めての経験であり、全方位でキャッチアップしながら働き続けているわけですね。

経営と現場、上司サイドと部下サイド、どちらかを過度に擁護したいわけではないですが、こういう「お互いの見えている景色の違い」をいかにメタ認知して、相互理解、相互フィードバックに繋げるかが「崩壊」を未然に防ぐための組織の基礎体力となるでしょう。

また、組織の「人材」をハードスキルではなく、「やる気」に与える影響度合いというソフトスキルという視座で見た場合の考察もぜひ参考にしてください。

最後に|"組織崩壊"は悪なのか?

ここまで書いておいて何ですが、そもそも「組織崩壊は悪なのか」という視点に、疑いの余地はないのでしょうか。

実際に「組織崩壊」を経て成功しているスタートアップもあります。苦難を乗り越え残ったメンバーだから、その後の成功を掴めたと言えるケースもあるでしょう。

ただ、世の中は「生存者バイアス」で溢れています。「組織崩壊」的なイベントで心を崩してしまった人、涙を飲んだ経営者は数しれません。自ら手にするかはその人次第ですが、スタートアップにおける「転ばぬ先の杖」は多ければ多いに越したことは無いと思うので、「スタートアップの組織崩壊」に関する一般解的な処方箋を、そっと残して筆を置くことにします。

ごきげんよう。

応援が励みになります。頂いたサポートは、同僚にCoffeeとして還元します :)