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総合誌、同人誌等で過去に掲載されたものを放り込んでいきます。
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#現代短歌

「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿

「または、最善説」30首(「穀物」第2号)と、いくつかの異稿

はじめに2015年11月発行の「穀物」第2号が完売したので、掲載作「または、最善説」30首を公開します。この連作は、作者としてはあまり出来の良いものではなかったと感じていて、歌集が出る際には改作するか、全く載せないかのどちらかだろうと思いつつ、余裕が無くてずっと放置していたものです。

そうは言いつつも、この連作を作る段階でかなり苦しんだ記憶は今も鮮明に残っていて、これ以降「連作を作る」という行為

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Dead Stock(12首)

もうすこし美しくなるはずだつた器が誰の心にもある

この街を消費してゐる僕たちはイオンに寄つてから大学に行く

新設の書架のひかりを浴びながらレーニン全集、とほい呼吸よ

あくまでもそれはいたみで、みづうみにゆらぐ水面のやうに呪つた

君の死後を見事に生きて最近のコンビニはおにぎりが小さい

掛け持ちのバイトのやうにやめられるはずも無かつた まだ生きてゐる

暗闇を知つてゐるから見えるんだ点滅をく

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青春を弔うために――清原日出夫と岸上大作

青春を弔うために――清原日出夫と岸上大作

 冨士田元彦によると、中井英夫は決して岸上大作を認めなかったらしい。「かたくななまでの拒否反応を示しつづけ」、岸上の自死を冨士田が知らせても「いとも冷然と『清原でなくてよかったね』などという答えが返ってきて、くさらされた」という(『冨士田元彦短歌論集』国文社、1979年)。

 そんな角川「短歌」歴代編集長の間で評価の一致した稀有な例の一人が、清原日出夫(1937~2004)である。清原の第一歌集

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葦毛の時(20首)

葦毛の時(20首)

口笛に木犀の香のしたがへばわれに渋皮色の讃美歌

企みをもつ悦びに沈みつつ渦のつめたく身に兆せるや

あたたかい地図を拡げて包まつて、たぶん海岸線が変はつた

目を閉ぢよ ふかき鼓動のうらがはにこんなに海が囚はれてゐる

まどろみは僅かに致死を匂はして夜ごと逞しくなる幹たち

やめてしまふことの容易き生活の、ごらん青海苔まみれの箸を

読みさしの詩集のやうに街があり橋をわたると改行される

回想に

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