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仮説演繹法を、記事の企画・執筆に生かす

発信する記事が備える説得力は、記事の企画を練り、取材をどう進めるかを考える段階、つまり記事の構造づくりの段階で決まってくる。この段階において、すでに学術分野で確立されている論理構築の方法論をひな形として参照しておくことは、大いに役立つ。

以前、私のnoteで「アブダクション」について触れた(記事:アブダクティブ・アプローチとは何か:『才能をひらく編集工学』より)。アブダクションとは科学的発見の方法論のひとつで、目の前に見られる異質な現象や新たな現象に対して、仮説を当てはめつつ、その仮説が現象に対してうまく説明できるものであるかどうかを確かめる。これを通じて、採用した仮説の妥当性、ひいては個々の現象の背景にある普遍的な「知」を見いだすことができる。

このアブダクションは、次のような3つのステップで進めていく。

(1)意外なる変則的な現象が目の前で発生したので、観察し描写する。
(2)その現象の背景にある仮説を想起し、それを当てはめてみる。目の前にある現象がその仮説で説明づけられるのであれば、その現象が意外かつ変則的であっても、自然で当然のことだと考えられる。
(3)それゆえに、採用した仮説は真実であると考えられる。また、その仮説は普遍的な知であるとも言える。

採用する仮説を絶えず取捨選択していくことが望ましいし、自然に仮説に対して自己修整が繰り広げられることになる。というのは、我々記者・編集者・リサーチャーが対象とする社会事象は多くの場合、週・月単位で次々とアップデートされるうえに、それを取り囲んでいる環境も刻々と変化するためだ。

そこから考えると、記者・編集者・リサーチャーによるアブダクションにおいて最初に打ち立てる仮説は、ほぼ「作業仮説」と言っていい。説得力の高い高品質な仮説を形成するまでに、たくさんの情報収集と分析、そして作業仮説の検証が繰り返される。その結果、別の仮説を適用することになったり、あるいは仮説の亜種が適用されることにもなったりする。

■仮説演繹法とはどのようなものか

この点から参考になるのが、仮説演繹法という手法である。こちらのステップは次のようなものだ。

(1)仮説を設定し、その仮説から実験/観察可能な命題を演繹的に導き出す。
(2)その命題を、実験あるいは観察によってテストする。
(3)テストの結果が満足いくものであれば、(1)で設定した仮説を受け入れる。結果が不満足なものであれば、仮説を破棄あるいは修整する。

アブダクションと一見似ているが、違いもある。最大のポイントは、仮説演繹法では「仮説を発見すること」に重きを置いた手法であるという点だ。アブダクションのほうは、基本的には、仮説はすでに世に存在する、つまり所与のものを当てはめることを想定している。仮説を形成する過程には関わらない。

別の言い方をすれば、アブダクションは多くの場合、「どのような仮説を採用すれば発見した事象を説明できるのか」という観点に立って事象の中身を探求する。これに対して仮説演繹法は、仮説はあくまで「作業仮説」としておいたうえで、それは常に変化しうるものだという前提に立つ。かつ、その仮説を検証することに重きを置く。言い換えれば仮説の検証が主題となる。

この点から考えれば、記者・編集者・リサーチャーの実務において仮説を当てはめていく作業は、アブダクションを使っている場合においても、実態としては仮説演繹法のニュアンスを含んでいると言っていいだろう。

記事の論旨展開をつくる場面に適用しながら、それぞれの活用方法を考えてみよう。

まず、アブダクションのほうは、被説明変数(結果)であるYを深く描写するために、それに関わる説明変数(原因)Xを普遍的な仮説Mを使って解明するという文脈に適用しやすい。例えば次のような格好だ。「ある事象Yが起きた。一見レアケースとも受け止められる。だがその内側を仮説Mに従って探っていくと、Yの背景には仮説Mの表出である要素のX1やX2が見えてきた(必要条件)。ここから考えると、事象Yの発生は、必然とまでは言い切れないものの、自然な成り行きであったとも考えられそうだ」。

仮説演繹法のほうは、書き手が探求している仮説Mを補強するために、被説明変数(結果)であるYと説明変数(原因)Xのそれぞれを掘り下げていくという文脈に適用しやすい。例えば次のような論旨展開である。「我々はM(仮説)という新しい時代に突入している。そのMという新時代の象徴が、最近発生した事象であるYだ。Mという時代にはX1やX2(命題であり説明変数Xから導かれる別の形態)という特徴がある。そして最近各所で見られる事象Yの中にある要素を探していくと、X1やX2が存在する。それゆえに、Yという事象はMという時代の象徴だと言えそうだ」。

このように適用例を記述していくと分かることだが、アブダクションは横断的というよりは、一つあるいは少数の事例を個々に掘り下げていくのに適している。他方、仮説演繹法は事例横断的に物事を描写するときに使いやすい方法だ。なお社会学および政治学を専門とする保城氏は、アブダクションは「事例内分析(within case analysis)」に向けた方法であり、仮説演繹法を「横断的な事例研究(cross-case study)」に向けた方法だとしている※。

※ 「社会科学と歴史学の統合の可能性」、組織科学、Vol.51 No.2:4-13(2017)、保城広至

取材記者やリサーチャーとしての取材・執筆の実務においては、時間や労力の制約上、1つあるいは3つ程度までの事例取材を通じて何らかの知見を導出することも少なくない。また編集者として著者の執筆を支援する際においても同じで、著者が持ちうる時間や労力の制約を踏まえつつ、著者による知見の導出を適切に支援する必要がある。

足の速い出版・メディア分野では実際のところ、本稿で述べたような仮説の設定およびブラッシュアップに重きを置けないことも少なくない。だがアブダクションや仮説演繹法といった論理構築の手法を頭においておくだけでも、日々発信するコンテンツを通じて一定の価値ある知見を導出するための「よすが」になるはずだ。

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