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中間管理職ジャファー

実写版『アラジン』を観てきた。

 評判が良かったので不安はなかった。

 大事なところはしっかりと残しつつ、アレンジも原作の作った道を大きく踏み外すことなく、とてもよかったと思う。青色魔人ウィル・スミスの出来も素晴らしかった。

 ただ、今回は映画の感想というわけではなく、友人の一言で僕の中のジャファー像が大変革を起こしてしまった、という話をしたいと思う。

注意

 今回の記事では、だいぶ恣意的に『アラジン』という作品に言及しているので、目次をあらかじめご覧いただき、これくらいの冗談なら笑って読み流せるよ、という方がご覧くださればと思う。

友人の話

 僕には、ディズニーの悪役たちをこよなく愛する友人がいる。

 その友人が、以下のようなことを言っていた。

「無能寄りの王をお守りしながら、代わりに国務を取り仕切るという激務をこなし、夜は砂漠の洞窟まで往復して、ポッと出の盗人に企てを台無しにされるんだから、そりゃキレるわ」

 今の僕の心のなかに、この友人の解釈がストーンと落ちてきた。時間がたつにつれて、深く頷くことしかできなくなった。そして、なんてこった、と思った。

 このジャファー像を聞いてからというもの、僕の中でのジャファーに対する見方はガラリと変わった。

 僕のなかでジャファーは、「国を我が物にせんとする邪悪でヘビのように狡猾な男」から、「仕事ができない上司にストレスを抱え続けた結果ブチ切れて、上司には消えてもらって自分がプロジェクトを動かした方が話が早いと考えるようになった中間管理職」という非常に身近なものに変わってしまったのだった。

無能な王サルタン

 実写版だと威厳のあるおじさんで、領土拡大のため他国侵略を進言するジャファーをたしなめている場面もあったが、具体的に何か有意義な政治を行っていたかというとちょっと思い出せない。

 アニメ版の王はどんな人物だったかというと、なんだかおまんじゅうみたいな丸々としたおじさんで、嫌がるイアーゴにひたすら不味いビスケットのようなものを食わせて上機嫌になっていた、というイメージが強い。

 その上、どこの国から来たかもわからない、派手なパレードでやってきたポッと出の王子にジャスミンを嫁にやることに、けっこうノリノリであったようにも見える(そりゃジャスミンも「私はゲームの景品なんかじゃない」とキレるよなあ)。

 こんな感じなので、この王が政治的に有能であったと考えるのは、ちょっと難しい。

 どれだけ頑張って国の政治をとりまとめようとも、この王の一言で台無しになってしまうこともあるのだろう。王制ならば王を頂かなくてはならない。中間管理職ジャファーの気苦労やストレスは想像に難くない。

世間知らずジャスミン王女の所業で国がヤバい

 この王が溺愛しているのが、ジャスミン王女だ。

 友人の弁を借りると、この王女は、王制ということを考えるなら、かなりとんでもないことをしでかしたことになる。

 もしジャファーが野心など抱かずに国王に忠実に仕える家臣で、最終的に打倒されなかったとしても、国務大臣ジャファーの胃は潰れてしまうことになっただろう。

 世間知らずのジャスミンは、

①勝手に王宮を抜け出し、

②100パーセントの善意で街で売り物のパンを勝手に子どもたちに与え、

③店主に見つかって泥棒としてとっ捕まえられ、

④たまたま通りかかって助けてくれた街の盗人(顔が良い)に心を寄せ、

⑤その盗人と良い関係になる。

という対王制最悪コンボを決めてしまうのである。

 いったい誰が政治を取り仕切るというのか。ジャスミンとアラジンが結婚んしてしまえば、街の盗人(顔が良い)が王になってしまう。

 今までの王も無能ではあったが、国のトップとして立つということだけはし慣れた人物であったから、まだマシだったかもしれない。それが、ガチで国レベルのこととか考えたこともない輩が王になってしまうかもしれないのだ。

 そりゃあ、ジャファーは自分が王にならざるを得ないと考え始めるだろう。王権を持つ人々は、政治に対してはみんな無能なのだから。

 アグラバーの明日はどっちだ。

(この点については、実写版ではアレンジが加えられていて、国がヤバくならないように設定が追加されていたことは、追記しておく)

重なる境遇

 これら二人の王族を頂く必要があるジャファー。加えて、王女が街の盗っ人と結ばれそうになるとなると、もう気が気じゃないと思う。

 逆らえない上役に振り回されるジャファー。

 かわいそう・・・・・・!


 と、ここまできたとき、僕のなかにはジャファーに対するシンパシーのようなものが生まれていた。

 もちろん、ジャファーは打倒されねばならなかっただろう。アニメ版だと洞窟に入れるかどうかで何人もの人間を砂の下に沈めただろうし、ランプを持ってきたアラジンまでも殺そうとした。実写でも映画で倒される洋画悪役よろしく、人の命を虫けら同然に扱うような描写がなされていた。彼は倒されるべくして倒されたのだ。

 けど、彼の境遇を上記のようにおさらいした僕は、ジャファーに対する見方を変えざるをえなかった。

 中間管理職ジャファー。

 勝手な労働シンパシーを感じ、僕は彼が倒されたことに、心のなかで涙した。この上役さえいなければ、と心の中で数千回叫んだことがある僕にとって、もうジャファーは他人ではなくなってしまったのである。

 ジャファーは、『アラジン』の続編である『ジャファーの逆襲』で今度こそ完全に敗北してしまう。子どものころ、ビデオテープがすりきれるくらい何回も観た作品だが、大人になり、彼への見方が変わってしまった僕は、もうこの作品を観れない体になってしまったかもしれない。

 ジャファー、どうしてお前は負けてしまったんだ。

 お前が負けてしまうと、俺は自分の怒りまでも負けてしまったような気がして、辛くなるようになったんだ。

 他の映画にも

 友人いわく、ディズニーヴィランズ(悪役たち)には、「そりゃキレるだろ」というような悪役たちが他にもいる、とのこと。

 子供のころに見ていたディズニー映画を、もう一度紐解いてみようか。

 何か、新しい人物の発見があるかもしれない。

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