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キャラメルバナナと秋の空と、


元はといえば、一緒に買い物に行った時に最後まで悩んだワンピース。祖母が気に入っていた、あのトップス部分がネイビー色シンプルなデザインで、ボトムス部分がプリーツごとに配色が異なるスカートになっているワンピースを、やっぱり手に入れようと思ったことにある。


水曜日は3限のゼミ終わり、5限を家で受けるために急いで帰らなければならないし、木曜日だってそう。なにより木曜日には、40ページ分の英語で書かれたプレゼンの教科書を読んでおこなうプレゼンが待ち構えている。つまり今週は寄り道どきがないから、今日しかないと思い立った。


買ってもらったばかりの、紺と白のストライプのリボンがついた白ニットとアイボリーのショートブーツに、アイボリーのライダースジャケットを羽織り、ユニクロの濃紺ジーンズを合わせると、見事な白×紺コーデが完成した。おかげで気分よく大学に行くことができた。

ボトムスに買ってもらったばかりの紺色のキルティングスカートを合わせようかとも思ったけれど、出し惜しみをした。新しいものもので揃えた完璧なコーデはデートの日までとっておこうと思った。



どうやら私は寂しいらしい。


祖父母と過ごした3日間から、急に現実の世界に戻ってきてしまったから。



祖父母の家からの帰り道、たくさんの荷物を携えて本屋に行って、益田ミリさんの『永遠のおでかけ』を買った。

祖父母と別れて、大切な人との別れを描くこの作品が頭に浮かんで消えなかったからだ。

私には買ってもらった洋服やブーツ、気まぐれに撮っていた祖父母の写真があるけれど、祖父母たちの手元に、この3日間の私を思い出す手がかりはあるのだろうかとふと思った。もしかしたら、使わずにベッドの上に置いたままの用意してくれたタオルの残りかもしれないし、1回目の乗り換え駅まで行って見送ってくれる前に食べたまま水につけっぱなしの、洗われていない昼ごはんのカレーのお皿かもしれないし、「その青きれいだね」と私が言った祖母の青のブラウスかもしれない。そんなことを思ってみる程度には混乱しているらしかった。




その日は1限から4限まで授業が入っている、詰め詰めの1日だった。

2限が終わるのが遅くて、学食も学内のセブンイレブンも大行列だったから、少し離れたセブンイレブンまでお昼を買いに行った。

真っ青な青空が広がっていて、綺麗なキャンパスがよく映えるなぁと思ったとき、祖母が「ドットちゃんの大学の入学式行けんかったからねぇ」と言っていたのを思い出した。

スマホを構えて写真を撮り、メッセージを添えて祖父にLINEで送った。


大学だよ☺︎




4限が終わった16:10、16:22の快速を目指して早足で駅に向かった。

ふと空を見上げると、夜に向けて昼よりも淡くなった青空に秋らしい鱗雲が綺麗に広がっていて、写真を撮りたくなったけれど、電線が邪魔で諦めた。

少し小走りで快速に乗って、寄り道先の駅で降りる。


この駅の本屋は自宅の最寄駅と比べ物にならないほど充実していて、ついつい立ち寄りたくなってしまうけれど、17:00、遅くても17:15の新快速に乗って帰るんだ、と目標をたて、「今日はもう本屋に寄らないぞ」と心の中で宣言した。最近、毎日のように本屋に寄ることが癖づいていて、読みたい本がいっぱい溜まっているというのに本屋に入ると何かしら本を買わないと落ち着かなくて、結局買ってしまうことを繰り返していたからだ。

その頃にはワンピースを買うのは、今度のデートで彼とショッピングをするときにしよう、と目的を変更して、秋限定のオペラのアイライナーとアイシャドウを買うために@cosumeかPLAZAの方へと足は向かっていた。


結局、@cosmeもPLAZAも覗いてみたけれど、お目当てのゴールドのアイライナーも、くすみイエローのアイシャドウもなかった。そういえばファンデーションが切れそうなのだと思い出し、それを買う。その合間に服を見たりもした。


ふとお腹が空いたなぁという感じがして、でも一旦意識してしまうとその感覚はなかなか消えてくれやしない。そういえば入ってくる時に、何やらおいしそうな、400円のクレープを見かけたぞ、と思って立ち寄ってみる。


そのクレープはクレープロールと言って、何かしらの素材が包まれているスイーツだった。種類はフルーツと、栗と、キャラメルナッツバナナがあった。

いつもならクレープが気になることも、キャラメルナッツバナナを選ぶこともないはずなのに、キャラメルナッツバナナのクレープを、あまり迷うことなく選んで買って、外に出てすぐのスペースに座って食べた。なんとなく、バナナの甘さが恋しかった。



そのクレープは期待通りのバナナの甘さと、キャラメルのほろ苦さの中に、気まぐれにナッツの食感があった。



家に着いた瞬間、LINEから通知が来た。
お昼に祖父に送ったLINEの返信だった。


素晴らしい大学だネ。オジイちゃんは、間違いなく今晩大学時代の夢を見ると思うよ。😍😍😍



1日1通、祖父にLINEを送ろう。

そう決めた。







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