それ、ホントに失敗ですか?「ポスト・イット」とセレンディピティー
日々報道されるニュースの中から皆さんのビジネスに役立つネタ、知的財産に興味を持ってもらえそうなネタを紹介します。
今日のネタは、「ポスト・イット」です。
■ 「ポスト・イット」生みの親、亡くなる
「ポスト・イット」生みの親、スペンサー・シルバーさんがお亡くなりになったそうです。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_609dc178e4b063dccea7933f
「ポスト・イット」は、何度も付け剥がしが可能な付箋。
この製品のキモとなっているのが再剥離性粘着剤です。
粘着剤は粘着力が強い方が良いというのが常識。
普通なら粘着力が弱い粘着剤は失敗作です。
その一見、失敗作と思える粘着剤について粘り強く用途探索をして開発されたのが「ポスト・イット」なのです。
■ 「ポスト・イット」とセレンディピティー
「ポスト・イット」は、セレンディピティーの具体例としてよく取り上げられます。
「セレンディピティー」。日本語に訳すと、「偶察力」。
元々は、偶然から当初想定していなかった素晴らしいアイデアを思いつくことを指す言葉です。
しかし、「ポスト・イット」のように、失敗から大発明を生み出した成功事例にこの言葉が使われることが多いように思います。
例えば、ノーベルのダイナマイト。
ニトログリセリンはちょっとした刺激ですぐに爆発してしまう不安定な物質です。
ノーベルはこれを珪藻土に染み込ませて安定化させることを思いつき、ダイナマイトを発明しました。
このアイデアは保管していたニトログリセリンが漏れるというトラブル(失敗)があった際に、充填材にしていた珪藻土にニトログリセリンが染み込んでいる様子から生み出されました。
■ 私の周りで実際に起きたセレンディピティー?!
こういう話を聞くと、セレンディピティーは成功事例をドラマティックに見せるための脚色ではないかと思う人もいるかもしれません。
でも、私の周りでもセレンディピティー的な事例は実際にあったんです。
以前、私は富士フイルムの関連会社に在籍し、写真用色素の研究開発をしていました。
当時、富士フイルムはシアン(青色)の色素には強いけれども、優れたマゼンタ(赤色)の色素を持っていませんでした。
そんな中、発明されたのがピラゾロトリアゾール型のマゼンタ色素です。
この化合物は当初合成予定だった環状化合物とは逆巻き構造の環状化合物。
言ってみれば失敗作です。
しかし、試しに分析したところ、非常に良い性能の色素であることがわかり、実用化されたのです。
ただ、この化合物は偶然合成されてしまったものなので、どのような条件ならうまく合成できるのかを解明するのにはかなり苦労したようです。
私も工場試作に立ち会ったことがありますが、試作は困難を極め、必要量を納品するのにかなり難儀したことを覚えています。
■ まとめ
今日のまとめです。
「ポスト・イット」やピラゾロトリアゾール。
これらが「偶然の産物」かというと、そうではないでしょう。
仮に偶然が起こっても、殆どの人は失敗作としてゴミ箱に捨ててしまうんですから。
目の前で起こったいつもとは違う現象や想定外の生成物。
これらに好奇心を持ち、真摯に向き合う。
このような姿勢を持った人だけが素晴らしい発明に辿り着くことができるのだと思っています。
では今日はこの辺で。
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