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導かれた出会い

全財産のお清めを終え、すっかり満足したウサギとカメは、再びハイキングコースを辿り始めた。目的地はまだ遠くにある。人とすれ違うことができないほど狭い山道を、二人は寄り添いながら歩き続けた。

どれだけ歩き続けただろうか。やっとのことで山道を抜け、県道32号線にたどり着くと、二人は休むことなく長谷寺へと向かった。

長谷寺の山門をくぐると、石段がつづら折りに続いていた。最後の一段を上りきると、その先には荘厳な観音堂の姿があった。観音堂の中に足を踏み入れると、全高9.18メートルの黄金の十一面観音菩薩像が、圧倒的な存在感を放っていた。

時は721年、この世に二体の観音像が誕生したと伝えられている。そのうちの一体は、なぜか海の底へと納められた。そして時は流れ736年、横須賀の沖合いに突如として現れた観音像は、不思議な力に導かれるようにここへと遷されたのだという。そんな幾星霜を超えた物語の前に立ち、二人は時間の重みに身を委ねながら、その姿を仰ぎ見ていた。

観音像の余韻に浸りつつ、境内をそぞろ歩くと、視界に赤い鳥居と弁天堂が飛び込んできた。その鳥居の先には、洞窟が続いているのが見えた。鳥居の朱色は夕陽に映え、まるで異世界への入り口のように思えた。

弁天窟の入口

「さっきまでお寺の庭にいたのに、いつの間にか異世界のダンジョンに迷い込んでしまったみたいね」身を低くしながら、ウサギが呟いた。「ここは弘法大師が修行に励んだと言われる洞窟だから、平安時代にタイムスリップしたような気がするよ」カメも静かに言葉を続けた。

異世界のダンジョンのような洞窟

「それにしても弁財天がたくさんいるわね。私の神さまだから、なんだか嬉しいわ」

弁天窟の中には無数の弁財天があった

洞窟の出口にたどり着くと、次なる出会いが待っていた。そこには和み地蔵が静かに佇んでいたのだ。観音さまと弁財天さまとの出会いが、まるで見えない糸で二人をこの場所へと導いてきたかのようだった。

和み地蔵


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