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よかったね ネッドくん

その日、カメが図書館の静けさの中で本の海に潜っていると、肩を落としてトボトボと歩くウサギが現れた。彼女の表情は曇りガラスのように霞がかかっており、どこか彼女の不運を物語っていた。

彼女は細い身体を、力なく閲覧席の椅子にあずけると、小さな声で話し始めた。「長い列に並んだのに、買いたかったスイーツが目の前で売り切れてしまったの。私はこの星の中で一番の不幸な人なの」

カメはそんな彼女に、「ウサギさん、それはきっと何か良いことの前兆だよ。この絵本にはそんなことが書かれているんだ。読んでごらん」と、優しく言葉をかけた。ウサギは信じられないような表情で、彼の手から絵本を受け取った。

物語の主人公のネッドくんは、遠い町で開かれるパーティーに招待された。しかしその場所は遠く、彼には自分の足ではたどり着けないほどだった。でも友だちが飛行機を貸してくれた。

ところが飛行機は途中で爆発。でもパラシュートがあった。

ところがパラシュートには穴が空いていた。でも下には柔らかい干し草があった…。

物語はとてもシンプルで、小さな不幸の後に必ず訪れる、幸運の連鎖を描いていた。知らず知らずのうちに夢中で読んでいたウサギは、ネッドくんが救われる度に、少しずつ笑顔を取り戻していった。

ウサギは最後のページを閉じた瞬間、心にふわりと柔らかな光が灯った。そして、ぎこちなく硬かった表情が優しい笑顔に変わった。「人生って、思いがけず大きく転がるものなのね」と、彼女はぽつりと呟いた。「もう一度、スイーツを買いに行こうかな」と、今度ははっきりとした声で言った。

ウサギは勢いよく立ち上がったが、テーブルに足を強く打ちつけてしまった。「痛っ」と小さく悲鳴を上げると、彼女はその場にうずくまった。その姿を見たカメは、ゆっくりと彼女のそばに寄り、そっと背中を撫でながら言葉をかけた。

「大丈夫。また、いいことがあるから」

※よかったね ネッドくん
シャーリップ・さく/やぎた よしこ・やく/偕成社

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