歌と光のエールをパリへ
夏休みに入り、人の増えた図書館で、ウサギは分類番号780のスポーツ書架の前で本の背表紙をじっと見つめていた。
「こんなにたくさんのスポーツがあるのね。どの選手もパリで頑張ってほしいな」
そんな彼女のそばを、カメがゆっくりと通りかかった。「オリンピックが始まったね。選手たちにエールを送ろうよ」と、彼が優しい声で話しかけた。
その夜、二人は都庁の展望台に立っていた。「夜景がこんなに綺麗なのは素敵だけど、ここからどうやって選手にエールを送るの?」と、ウサギは小さく首をかしげた。
カメはスマホを取り出し、時刻を確認した。「そろそろかな」とつぶやきながら、彼女の手を取ってエレベーターへと導いた。
都庁第一本庁舎前の広場には、大勢の人々が集まっていた。中央には報道関係者のテレビカメラがずらりと並び、まるで何か特別な瞬間を待ち構えているようだった。
「待って、これから何が始まるの?」
ウサギは目を輝かせながら、興奮した声で辺りを見回した。
カメは彼女の手を引き、人工芝の上にそっと寝転んだ。その瞬間、都庁舎の壁面に色鮮やかなプロジェクションマッピングが映し出され、広場は一瞬にして夢の世界に変わった。
そこでは、YOASOBIの「舞台に立って」の歌声と映像が選手たちにエールを送っていた。
「パリと言えば、エッフェル塔の近くでメリーゴーランドに乗ったことを思い出す。ルーブルやオルセーの絵画に出会えたのも良い想い出だよ」と、カメがぽつりと呟いた。
ウサギは静かに起き上がり、じっと彼を見つめると、ゆっくりと口を開いた。「もしかして、私を置いてパリに行ったの...?」
カメも静かに起き上がり、彼女とは反対の方向に這い進んだ。しかし、彼女の力強い手がその身体をしっかり掴んでいた。
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