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空想旅行案内人

ウサギが日傘をさしながら図書館に向かって歩いていると、向こうからカメが歩いてくるのが見えた。言葉の届く距離まで近づくとカメが言った。
「空想旅行に行ってみようよ」

二人は東京ステーションギャラリーに辿り着いた。「東京駅に美術館があるなんて素敵ね」ウサギは目を輝かせて声を弾ませた。

ジャン=ミッシェル・フォロン展

「フォロンの絵って、淡くて綺麗ね」とウサギがそっと呟いた。「その色合いがまるで今にも消えてしまいそうで、どこか儚い感じがするわ」

「月世界旅行」

「僕は、矢印があちこちに向いている絵が気になるよ」とカメは静かに言った。
「矢印の指す方向をそのまま信じるなって、警告されている気がするんだ」

「無題」

「戦争を象徴するマークや、ミサイルが描かれている絵があるわ」とウサギは言った。
「一見すると優しい絵に見えても、そこには強いメッセージが込められているのね」

「グリーンピース  深い深い問題」

「あのリトル・ハット・マンってフォロン自身なのかな?」カメは、絵の中の小さな帽子をかぶったマントの男を指さした。

「私も気になってた」とウサギが言った。
「リトル・ハット・マンの役割って、絵によって違うんじゃないかしら」

「でも、私たちに向けて、確かに何かを伝えようとしているわ」

ギャラリーを後にし、フォロンのメッセージを思いながら歩いていると、二人の前に異世界へ誘うような螺旋階段が現れた。

出口へと続く螺旋階段

「1914年に駅舎が立てられた時のレンガが、今もこうして残っているんだね」とカメは静かに口にした。

1914年開業当時のレンガの壁

「駅って、人が旅立つ場所よね?」とウサギが階段を降りながら言った。
「そんな場所で、リトル・ハット・マンと一緒に空想の旅に出たのね」

丸の内北口を見下ろす回廊

「これから何をすべきか、ちゃんと考えなきゃね」とカメが言った。それぞれの思いを胸に抱きながら、二人は駅の人混みに静かに紛れ込んでいった。

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