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古の風を読み解く人

その日、ウサギは図書館の分類番号242の書架の前で腕を小さく組みながら、エジプトに関する本を探していた。やがて書架から一冊の本を抜き取ると、自動貸出機で貸出処理をした後、中庭に足を向けた。

中庭に辿り着いたウサギは、テラス席でゆっくりとページを捲っていたカメに、ぽつりと話し始めた。「ある時、私は考古学者になりたかったの。カメくんがサピエンス全史の話をしていた時に思い出したわ」

カメが静かに先を促すと、「学生の頃の私は、何よりもこの広い世界を自分の目で見たくてたまらなかったの。だからこそ、多くの国々を巡ったわ。その中でも強く心に刻まれたのは、ギザの三大ピラミッドの壮大さだった」ウサギは目を閉じて、あの時の記憶を思い返した。

「ピラミッドが建てられたのは、紀元前2250年ごろ」カメはそっと言葉を紡いだ。「確か、その建造方法は今でも完全には解明されていないらしい。それがウサギさんの興味を引いたのかな?」と、探るように尋ねた。彼女はその問いかけに目を開くとゆっくり頷いた。

「ピラミッドはね、遠くから見ると大きな三角錐だけど、近くで見ると一つ一つの石が2メートルもあって、まるで大きな積み木のよう。それを目の当たりにしたとき、どうやってこんなものが作られたのかしらと、不思議でならなかったわ」ウサギの言葉には、未解決の謎への憧れが込められていた。

「ピラミッドの中にも入ったのよ。ほのかに灯るランプを頼りに、ゆるやかなスロープを下りていくと、何千年も前のファラオの意志が今も息づいているように感じられたわ。その暗がりの中で古の空気を吸い込むごとに、時を超えたつながりを実感したの」ウサギはその時の感覚を思い出していた。

「それで考古学者になりたかったんだね」とカメが尋ねると、「エジプトにいる間はそうだったの。次の国に入るまではね」ウサギはいたずらっぽく微笑んだ。

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