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バカについて

ある男はここ5年ほど、バカに苦しめられている。主に職場での話だ。
彼はIT業界で働いているが、プロジェクトの主に管理職レイヤーの意思決定のずさんさに辟易していた。
いくら金を積んで全国から優秀な技術者を集めても、その指揮を執る人間の意思決定の精度が極めて低いのだ。彼らが下す決定による影響力は、個々の技術者の技術力の有無など消し飛ぶような規模のもので、これにより簡単に1~2年のプロジェクト完成時期がずれ込む。
これだけの規模の損失を被る可能性がある意思決定を下す人材は、それなりに優秀であるはずだ、またそうあるべきだ、とも男は考えていた。
だがその期待はことごとく裏切られることになり、優秀な意思決定者を求めて職場を渡り歩き、また自身が管理職についたりもしてみたのだった。
結果は芳しくなかった。
つまるところ、最終意思決定者が自分でない限りはこの被害を止めることができない。どうしてもバカを止めることができなかった。

shikari

そんな折、ネットの記事か何かで以下のような本を見つけた。
フランス人哲学教授に学ぶ 知れば疲れないバカの上手なかわし方

正直あまり書店で手に取りたくない類の本ではあるが、軽い気持ちでamazonで注文して読んでみた。
まだ途中だが、いくつか有益な気づきがあったので記しておこうと思う。

まず前提として、

■絶対的にバカの人間はいない


優秀なものも誰かにとってはバカであるということ。これは分かる。
ただし大多数の人間にとってバカだと思われているような、相対的にバカにされている人、というのも一定数いる。

■バカを認知した時点で、認知した人間もバカになる


どういうことか。世の中には確実にバカとそれを認知する人間(バカではない)が要るはずだが、「相手をバカにする」という行為には以下のような罠が仕掛けられている。

①バカにした相手への思いやりや愛情、尊敬の念が消し飛ぶことにより、バカにしている対象がとるような言葉遣い、態度、行動を気付かないうちに取っていく。

②これがエスカレートした結果、
バカとは
A:バカな行為をする人と
B:バカな行為そのもの
で構成されている
ここで「Bする人はいつも絶対的にバカである」のような発想の飛躍が行われてしまい、バカをする人にもコミュニティや観測者、時期の違いによってはバカではなくなるということを認知できなくなる。
この認知のゆがみにより現状を正しくとらえることができていない、という点において観測者も違うジャンルのバカになっている。
そのため、「バカには目撃者はおらず、共犯者しかいない」とされる。

■バカに対応するには「自分の理想とする人格を発揮するための課題」だと捉えるしかない。


これは現実問題として取ることができる対処法は、バカと同じ土俵に立たずに自分が考える正しい・望ましい人格として接することだけだ。
戦いを受けて打ち勝とうとしても、また相手の考えを変えようとしても無駄だ。まずはバカの登場によって自分自身が傷ついていることを自覚し、冷静になることが重要だ。しかしながら感じたことは残らず発してしまってよい。あなたの理想とする人格のやり方でだ。

■相手を説教することの無意味さについて


そもそもの相手を説得するという行為において、どういう力関係と思惑が働いているかを整理してみよう。

①前提として説得する側もされる側も、何らかの成果を出すことには失敗している(それを受けて説得が始まることが多い)

②説得する側は、「相手をバカだと認知しつつも、説得により相手を変えようとする」という矛盾をはらんでいる。説得により自身の考えを改めることができる者は、自分の犯した行為がバカだったと認知し受け入れることができる者であり、そういった者は少なくともバカではない。つまり、相手をバカだと思いつつも、相手の能力に頼る形でバカを脱してもらうよう懇願しているのだ。

③さらに説得する側は、「自分はバカではなく、相手がバカだと認知していながらも、結果として思わしい成果を得ることができなかった」ことに対して後ろめたい気持ちを抱えている。そのため、「この規則によると~」などといったルールや道徳による説得を行おうとする。後ろめたさからくるこの手法では自身の発する直接的なメッセージからは幾分温度の下がった内容になり、聞く側もそれを受け入れる理由が全くないので、効果がない。

④説得をするという行為自体が失敗を物語る


説得が行われる場合は

・相手がバカだと思いながらも、聞く側に自分の犯した行為がバカだったと認知し受け入れることができる能力があると期待する

・両者間に一定の信頼関係がない

といったことが軒並み露呈することになり、かつ相手はそもそもリスペクトもしていない相手からの説得を聞く理由が全くないし求めてもいないので、相手が変わるようなこともない。


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