喫茶まりえーる

常に見張られている気がする人、石の下に住んでるダンゴムシみたいな人、宇宙人のマブダチは…

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常に見張られている気がする人、石の下に住んでるダンゴムシみたいな人、宇宙人のマブダチはアタシのところに来なさい。以上。

最近の記事

まだ泣いてはいけない時

私にとって“誰かが居なくなる“という経験は、鉢植えの花が枯れるという事実によって訪れた。 私にとっての“あの人“が大切に育てていたシクラメン、それがすっかり萎れて鉢植えの縁に褪せた様子で項垂れている。 春というには十分だが、未だ冬の空気が名残るように吹いている季節に、あの人のシクラメンは枯れてしまった。 私があの人と呼ぶ彼女は花が好きだった。 あの人は毎日太陽が山肌から顔を出す前に起きてきて、その小柄な身体には不釣り合いな程大きいジョウロを持って、庭の花々に水をやっていた。

    • 『誕生日おめでとう』の呪い

      今まで誕生日を特別な日だと感じたことがない。 それは自分であれ、他人であれ、例外はない。 寧ろ、他人に対して祝いたいと思う気持ちはあれど、それは相手に会いにいく口実だったりする。 自分が会いたいと思っている人が喜んでくれる可能性が高そうで、しかもそれがお金を落とす口実になるのであれば、やはりそれでいい。 おめでとうの押し売りだ。 誕生日を祝ってほしい人ばかりでないことは重々承知だけれど、それでも私はあなたに喜んでほしいのだというエゴを渡しにいくためにある、それが私とっての誕生

      • エンタメ以上になれない私達

        「もうそろそろ帰りましょうか。」 電気を全て消したにも関わらず、この部屋はそこはかとなく薄明るい。 閉め切った部屋の窓からはどこからか太陽の光が漏れていて、既に動き出した人々の喧騒が小さく聞こえてくる。 もうこんな時間…。 そんなことはホテルに入る前からわかっていたことだった。 互いに了解した上でここにいるのに、もう何も楽しいことがないかのような終わりの空気に2人とも既に耐えかねていた。 「不眠症気味なんです。」と言った彼の言葉通り、私たちは3時間も眠ることができなかった

        • 変質する女たち

          女の在り方は如何様にも変質する。 そんな単純なことを思い知ったのは最近のことである。 久しぶりの邂逅であればある程、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を感じる。 私は最近、今まで繋いだ縁をなぞるように人と会う約束を取り付けている。 その様子は何かに急き立てられているようにも見えるし、自分でもそんな感覚がある。 『今だったらきっと結末を変えられるんじゃないか』、そんな思いがこの行動の根底にある。 あの当時は人を傷つけることしかできなかった私。 目の前の人間を自分の姿を反射する鏡と

        まだ泣いてはいけない時

          14歳に宿る狂気

          1880年代、ある印象派展で発表された彫刻作品が話題を呼んでいた。 それは全長140cm程の、少女を象った蝋人形である。 背中で緩やかに腕を組み、そっと右足を踏み出している彼女。 髪の毛は低い位置でひとつにまとめられ、空を仰ぐように上げられた顎と細められた眼差し、つんと尖らせた薄い唇からは彼女の幼さが表現されているようだ。 ほっそりとした長い手足と華奢な体躯からはしなやかな筋肉の膨らみが見てとれるが、下手をすれば痩せすぎているようにも思える。 作家であるエドガー・ドガは確信

          14歳に宿る狂気

          水道水で真っ白になるスルメイカ

          水を買う習慣がついたのは、ここ二、三年のことだ。 私の故郷では水は湧くものであって、自ら求めて買うものではなかった。 上京して当初は、以前からの習慣で水道水を飲んでいたのだけれども、周囲の人間が水を買い求める様子を見て、いつの間にか私もそれに倣うようになった。 買い求めた水は美味しいのか分からないけれど、水道水と比べれば幾らか柔らかいような気もする。 特別に素晴らしいとも思わないけれど、不足は感じない。 生命維持に必要不可欠なそれは、我々の味覚に感じすぎないように作られている

          水道水で真っ白になるスルメイカ

          枯葉に寄せて/Les feuilles mortes

          乾いた落葉を踏みしめつつ、乱立する木々の間から人生を覗いている少女。 大きくうねる木の根に足を取られながら、あなたの頬に触れようと手を伸ばす。 その小鳥は既に冷たくなり始めているようだった。 翼を半端に広げたまま、嘴を小さく開いている。 反射的に見てはいけない、と思った。 何故なら、祖母は私が動物の死骸に祈りを捧げることを禁じていたから。 「その同情は誰の為?」…そう言った祖母の、他人のような横顔が思い出された。 そっと小鳥を拾い上げると、小鳥は最後の力を振り絞って痙攣し

          枯葉に寄せて/Les feuilles mortes

          東京には人魚が棲んでいる。

          今日、人魚の鱗を拾った。 それはとても小さくて、軽い。 うっかりよそ見をしていると、風に吹かれて無くしてしまいそうである。 掌に乗せて光に翳してみると、温暖な海を思わせるコバルトブルーがピカピカと虹色に反射する。 よく見てみると思った以上に精緻な作りのそれは、小さなクリスタルの飾りやグリッターのような煌めきを盛り付けられている。 わん曲する鱗の裏側はブルーが透けてパステルブルーになっているが、人工的な表面と比べるとザラザラして自然的である。 恐らくこの面が身体にく

          東京には人魚が棲んでいる。

          モンチッチ頭のなるがまま

          このところ、雨ばかりだ。 どんよりとしたくらあい雲が、のっしりとした質量を持って街に覆い被さっている。 空から吹き付けられる小さな雨粒を軽んじて、いらないかもしれないからとうっかりを装って傘をささずに出かけてみる。 これはある種自分との賭けでもあるのだが、こういう時は大抵負けてしまうものだ。 歩き始めて数分、大きく膨らむ雨粒の気配をつむじに感じて、もしもの為にと腕から下げていた傘を私は開くことになる。 最近はこんなことばかりだ。 目的に定めていた喫茶店が満員で、私

          モンチッチ頭のなるがまま

          誰が為の入浴か

          もう3日は風呂に入っていない。 そう気がついたのは、なんとなく決めている頭のTo Doリストに追加された“入浴“の項目が、いっこうに消化されないまま残されていたからだ。 気分が落ち込んでくると、まず何よりも先に清潔行動がままならなくなるのはいつものことである。 全ての瑣事を放棄する為に、纏った洋服を脱ぎ捨てる。 求められた役割も、ぴんと張った緊張の糸も、どうしようもない自分自身すら。 そうして布団に入ってしまい、柔らかな重みを首元まで引き上げて、次回の空腹が訪れるま

          誰が為の入浴か

          他人の家

          人の家で眠るうちに、ここが自分の家であるかのように錯覚するようになった。 顔見知り程度の天井。 嗅いだことがある人の匂い。 ものが少ないから殺風景で、すべての家具が腰より下に置いてある。 東側の窓から光が入ってきて眩しい。 それを避けるように私は再び布団に潜る。 ペラペラの毛布を重ねた上に羽毛より軽い化学繊維の布団。 正直なところ寝た気がしない。 そこの家主である彼は、自分が美しいことを知らない。 下から見上げるとそこにある彼の鼻筋が、まなざしが、美しいことを彼は知らない

          小夜子 2019/2/26

          小夜子 彼女の生活に夫は存在しない。 彼女には小夜子という幼い娘がひとりおり、彼女は小夜子を大変に可愛がっている。 小夜子は確かに彼女の娘であったが、何故生まれて、どこから来たのかわからない。 父性的な香りは一切なく、彼女たちの関係は完結しているのである。 そしてなにより小夜子はそれ以上成長しないのだ。 母娘 彼女は結婚について話すとき、にわかに自信なさげな表情をする。 自分は結婚できないであろうと言いながら、それに安堵すらしているような態度を見せる。 彼女は彼女の母と

          小夜子 2019/2/26