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水道水で真っ白になるスルメイカ

水を買う習慣がついたのは、ここ二、三年のことだ。
私の故郷では水は湧くものであって、自ら求めて買うものではなかった。
上京して当初は、以前からの習慣で水道水を飲んでいたのだけれども、周囲の人間が水を買い求める様子を見て、いつの間にか私もそれに倣うようになった。
買い求めた水は美味しいのか分からないけれど、水道水と比べれば幾らか柔らかいような気もする。
特別に素晴らしいとも思わないけれど、不足は感じない。
生命維持に必要不可欠なそれは、我々の味覚に感じすぎないように作られているのだろうか。
それとも、ただでさえ刺激の多い現代にあって、私は原初の感動を忘れてしまったのだろうか。

今日は自分が飲む分の水を買い忘れてしまったので、水道水を飲むより仕方がない。
私は銀色の蛇口を軽く上に引き上げて、その先口にそっとコップを差し入れる。
予定調和の如く流れ出る水の流れを見つめて、私は想像するのだ。
東京の水を大量の塩素が洗い上げる様子を。
そしてそれを口にする私は、一口ごとに少しずつ漂白されていって、いつかスルメイカのように真っ白くて、つるりとした生き物になる瞬間のこと。

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