人生における経済的リスクを管理する
「臆病者のための億万長者入門(文春新書)」の中でこう定義したのが著者である橘玲氏だ。
2014年出版なので、今からちょうど10年前の著書になるのだが、その内容やメッセージは2024年現在でも有効に機能する普遍的なものが多いと思う。
老後2,000万問題(4,000万に増えた?)に端を発する将来不安や年金/社会保障問題などへ備えさせるために、2024年からNISA制度も一新されました。
これを機に株式投資を含む資産運用を始めた国民が増えた印象です。
某SNS界隈では「●●の株価が上がった下がった」「どの株がこれから上がりそうか」などの話題に事欠かない毎日だが、しかしそんなことは末端の枝葉に過ぎない。
このnote記事では投資や資産運用の細かな手法ではなく、当書籍から学べる普遍的なエッセンスと共に、2014年当時の橘玲氏による今後の社会の見立てや予想を取り上げ紹介していこうと思う。
誰でも億万長者になれる残酷な世界
少なくとも日本やアメリカのような全世界的に見て相対的に恵まれた環境に暮らす人々は1,000人に1人とか10,000人に1人という割合ではなく、それなりに多くの人たち(10世帯に1世帯以上)が億万長者になれてしまう、という”残酷な真実”があると書かれている。
ここでのワードチョイスが秀逸で、なぜ”夢や希望に満ちた”ではなく”残酷な”なのかだ。
それは億万長者になれないことそれ自体が、あなた(わたし)自身の不勉強、不摂生、怠惰、無能をある意味証明してしまうものであるから。
要するにメリトクラシー(能力主義)の暗黒部分(逃げ場の無い自己責任論)を表現しているのではないだろうか。
意味することはそんなところだと思う。
さて、橘氏は本書のなかで億万長者になるポイントはたった3つだと記している。
①収入を増やす
②支出を減らす
③資産を上手に運用する
これを方程式としてあらわすと下記となる。
年金問題は個人的に解決できる
億万長者にはなれなくても、更にハードルが低いであろう老後不安/年金問題の解消はかなりの部分、個人で解決可能だというのが次の内容になる。
そもそも、老後不安/年金問題の本質は老後(リタイアから寿命まで)が長すぎるという事が問題であって、であれば”老後”を短くしてしまえば良いという話だ。
要するに、リタイアしないで働き続ければ、仮に年金が減ったとしても困らないよね?という体育会系のノリだが、あながちバカにできない。
ここでは”資本”の理解がポイントで、資本を分解するとお金や不動産などの「金融資本」と我々の脳や体などの「人的資本」に大きく分けられる。
※近年の橘氏はここに「社会資本」を加えた3つの資本の組み合わせによって生まれる「人生の8パターン」によって、すべてのひとびとの「幸福」のカタチが説明できると以下の著書で発信している
そして、それら資本(資産)をうまく運用するには以下3つがポイントとなる。
①それぞれの資産のリスクを最小化する
②それぞれの資産のリターンを最大化する
③資産運用におけるコストを最小化する
例えば、人的資本のリスクを最小化するとはどういう事か。
最大のリスクは生きているのに働く(お金を稼ぐ)ことが出来なくなることである。
よってリスクの最小化とはそのような事態に陥らないように心身ともに健康でいること、労働市場で無価値にならないよう専門知識やスキルの習得、アップデートをしていくこと、このあたりであろうか。
また「リタイアしないで働き続ければいい」というのは言い方を変えれば「人的資本をより長く労働市場に投下しリターンを得る時間を延ばす」という事になるので、人的資本のリターンを最大化する手段のひとつになり得るという訳だ。
※もちろん「収入を上げる」もリターン最大化のための1つの手段
金融資本のリスクの最小化とは無リスク資産を100%にするというのが金融理論の教科書的な解なのだが、インフレリスク等も考慮すると現実的にはそれではダメそうである。
ここも教科書的になるが、ハリー・マーコウィッツ氏の唱えた効率的フロンティアから発展した現代ポートフォリオ理論をベースに各々のリスク許容度に応じてリスクとリターンのバランスを鑑み、金融資本を金融市場へ投下/配分すれば良さそうである。
そして橘氏は2014年に下記のように未来を予想していて、筆者も概ね同意だ。
もちろん長く社会に参画するとは”自己決定権を持ったうえで”という幸福の前提条件が付くはずだが、FIREがこれだけ市民権を得た2024年現在、今後どうなっていくのかに注目したい。
年金はこれからどうなるのか
この大前提を置いたうえで、橘氏はこう説いている。
大戦争や革命などが横行する乱世ではない現代の先進諸国においては、年齢ごとの死亡率は統計的に精度高く予測可能であり、いまのゼロ歳児が平均寿命を迎える約80年後あたりの人口構成がどう変化していくのかはあらかじめ分かっているという。
結論としては下記だ。
◆2050年:人口9500万人、総人口に占める老年(65歳以上)人口39.5%
これを見れば誰もが分かる通り、現行の社会保障制度や年金制度が今のまま持続可能と考えるのは無理がある。橘氏によると、今後の財政赤字が拡大する度に以下の選択肢を迫られるとしている。
①国家破産
②社会保障制度崩壊
③増税
さて、国家として①国家破産は何が何でも避けると考えるのが自然なので、可能性は低い且つもし起こるなら最後の最後となろう。
その前に来るのが②社会保障制度崩壊になる。しかし、自己責任と自由の国アメリカをはじめ先進諸国で社会保障制度を全廃した国家はいまだないので、崩壊の可能性はかなり低いものの、時間と共に少しづつ改悪はあり得る。実際に2024年現在の日本もそうなってきている。
やはり、初手としては③増税/社会保障負担増だろう。そしてこれも現在進行形だ。
年金はどうなるのか、の問いに個人として向き合うのであれば、「現行制度は持続不可能で、全廃は無さそうだけど給付額が減るか、給付時期が伸ばされるか、貰える人と貰えない人の線引きがされるか、またはその全部が実行される可能性がある」くらいに考えておく方が良さそうだ。
そこへの備えは既に書いてきたことと重複するが「リタイアしないで働き続ける」ことと、「自身のリスク許容度の範囲で金融資本を金融市場に投下すること」である程度はヘッジできよう。
どちらにせよ、心身ともに健康でいることが大事になりそうだ。
最悪の経済的リスク
最後に、人生における最悪の経済的リスクについても触れておきたい。こちらは上述した「国家破産」になる。
しかし橘氏はこの国家破産に関しても実はそこまで怖くないと書いている。そして、国家破産(デフォルト)はこれまでデフォルトした他国の事例をみても、ある日突然起こるわけではなく、時間と共に徐々に破産の道を駆け降りるので破綻へ向かっていることに気付くことは容易らしい。
破綻に向かう中で起こる代表的な出来事としては下記としている。
この辺りに対応できればなんとかなりそうなのと、日本以外の土地で生活することも併せて考えると、シンプルな対応策としては日本円以外の通貨を保有しておくという保有通貨の分散であろう。
今ではNISAや投資ブームによって、米国株や全世界株に投資している人も増えた。
これらは海外企業の株式や投資信託を保有する事を通じて間接的に外貨を保有していることになっている。
また幸いなことに日本にはインターネットインフラやオープンな投資環境が整っているので、誰もがクリック一つで遠く海の向こうの企業の株式や投資信託を買えるのだ。
もう一歩踏み込んで、預金封鎖対策として海外の銀行口座もひとつは持っておきたいところだなという考えもあるが、このあたりは追って検討しようと思う。
改めて、このnoteの内容は約10年前に橘玲氏によって書かれた書籍がベースになっている。どうだろう、全く見当はずれなこともなく、むしろその解像度の高さに驚かされるばかりではないだろうか。
詳細を知りたい方は一度当書籍を読んでみることをお勧めしたい。
おしまい
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