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Re: 【小説】エナジードリンクラプソディー

 シュトゥーカ!!
 ごきげんよう諸君!!
 うむ、楽な姿勢になってくれたまえ。いいよ、わたしがそう言っているのだから。
 さて、わたしが諸君らの教官を担当する聳え立つレッドブル。つまりルーデルだ。

 軽く自己紹介をしよう。
 朝起きてレッドブルを飲んで朝飯をレッドブルで飲んでラジオ体操して出撃をして昼飯をレッドブルで飲んで出撃して晩飯をレッドブルで飲んで出撃してシャワーを浴びて眠る。
 こんな生活をかれこれ5年は送っている。
 これはわたしがレッドブルに翼を授かってからの生活だ。

 そうだ。レッドブルはわたしに翼を授けた。
 立派な翼だ。見ての通り、わたしには筋力が無いので滑空しか出来ない。
 だがそれで充分だ。
 敬愛するレッドブルはわたしから足を奪った。
 しかしどうでもいい脚だ。
 歩く事の遅さに耐えられないわたしには足など不必要だからだ。
 遅かれ早かれ諸君らもそう思うようになる。

 わたしは滑空をする。
 眠る事と食事をすること以外は基本的に滑空をしている。主に爆撃をしている。翼に立派な翼にサイレンもつけた。
 これでわたしが来たという事が敵にもわかるだろう。
 だがわかったところでわたしの飛んだ後には草一本も残っていない。

 レッドブルは素晴らしい!
 このレッドブルは私のものであり、わたしのレッドブルはこれだ。世界には様々なレッドブルがあるが、これはわたしのレッドブルだ。
 わたしはレッドブル無しでは能無しであり、レッドブルはわたしに飲まれない限り砂糖水でしかない。
 わたしはレッドブルを正しく飲まなければならない。わたしはレッドブルを完飲し、レッドブルはわたしに完飲される。
 わたしはレッドブルを飲みそして全てを焼き尽くす。
 そう、わたしが富嶽になるその日まで。

 それでは諸君!
 明日からレッドブルを飲もう!
 以上。解散!!

***

 ガォー!!

 おれは自分で言うのもなんだけど、すげぇ奴なわけよ。
 物覚えは早いし、小器用だしな。
 カンも悪くない。大抵のことはチュルっとやれる。

 実際にガキの頃から天才少年と煽てられて成長したものだから、物心つく頃にはすっかり天狗になってたね。
 シーチョーくれてたよ。マジで。
 まぁ親が悪いよな。でも仕方ねぇよ、天才だもん。口喧嘩だって無敗よ。

 そんでこの間、仕事辞めたの。
 そりゃあもう現場労働なんてやってらんねぇよ。なんでこのおれが現場作業に?!と思う訳だ。
 だって天才だぜ?
 下積みとか序列とか関係ないっしょ。おれには現場なんて必要ないのよ、天才だから。
 棒振りとかトラックの運転なんて無能がやる仕事っしょ?
 さっさとオフィスに回せって言ったのにシカトよ。

 おれ、評価されてねぇのよ。
 まぁそこらの奴らとは偏差値とか知能指数とか離れてっから会話が成立しねぇし。内部評価が悪いっつーのも、まぁ仕方ねぇな。
 だから辞めてやったのよ、仕事。
 投資で稼げてるし。
 いま流行りのFIREってやつですわ。
 ハハ。FIREされたんじゃないよ、こっちからFIREしたの。
 その違いは分かって欲しいね。

 そんで暇だからずっとインターネット麻雀を打ってんのよ。田舎の古民家みたいなの買ってちょっと改造してさ。
 庭?家庭菜園?
 やらねぇよ、面倒くせえ。
 それにいざ始めたら本気出しちゃうだろ?おれ天才だし、きっと新しい品種とか出ちゃうよ。
 だからやんない。

 そう、それで麻雀よ。
 それが勝てない。インターネット麻雀。マジで。おれがいくら天才ったって運まではコントロールできないの。これがムカつく。心底ムカつく。
 牌効率とかデジタル麻雀だなんてのは百も承知ですわ。言われなくても知ってるっての。何切る問題とか馬鹿じゃないの、当たる確率と当たらない確率は半々だろ。

 冗談だ、真に受けるなよ。
 そんでさ、仕事辞めて無職でインターネット麻雀でも勝てないとか焦るじゃん。おれには何にもないの。
 面白くねぇ、面倒くせぇ、ムカつく。
 でも勝てない。つまんねぇ。

 痩せるよね、ストレスで。
 エナドリしか飲んでねぇし。
 そんで対戦相手のIDとか見てさ、昔の同僚っぽい奴とか見ると、また止せばいいのに調べちゃう訳よ。
 したら出世してんのな。
 おれのクソ投資よりクソ儲けてやがんの、クソ頭脳の癖に。あー腹立つ。
 おれが会社に残ってたら絶対にあいつを現場から出したりしねぇわ。

 麻雀は勝てねぇしむかしの同僚は出世してるし、あんまりにもむムカつくんで吉原のソープで生中したら黒服呼ばれてさ、もうボッコボコよ。
 人間をここまで殴る?ってくらい殴られたね。
 びっくりした。もう痛いとかじゃないの。
 全身が熱い。凄い熱いのよ。

 あとあれね、ボディって本当は食らった3秒後くらいに効いてくるのね。
 最初はヤー公のパンチも大したことねぇなって言おうと思ったもん。
 したらダメよ、マジで内臓が口から出るかと思ったわ。まぁゲロ出たけど。朝メシ抜いておきゃ良かったわ。

 そんでさ、まぁ仕方ねぇ。
 有り金と持ち株全部を吐き出してなんとか逃げてきた訳だ。すっからかんよ。家まで帰る金もねぇの。
 ったってしょうがねぇ、どうにか新宿まで歩いたんだわ。
 炊き出し目当てよ。とにかくなんか喰って回復しねぇとどうしようもねぇ。寝るのなんかどこだっていいよ、盗まれるもん持ってねぇし。

 したらさ、なんかさっき言った同僚が立ってんのよ。そう、出世したやつ。
 しかも炊き出す側で。
 びっくりしたね。でもさ、こちも炊き出し貰う器持って並んじゃってるからさ、逃げるのも変じゃん。
 いや逃げたいけどね。
 でももうどうしようもねぇよ。だから素直に並んだのさ。
 プライドとか言ってらんねぇ。
 背に腹はかえらんねーもんよ。


 そんで蚊の鳴くような声で「ありがとう」って言ったら「その声は!わが友!」って叫ぶからさ、もうびっくりして手の中のカレーぶっかけて逃げたよね。
 あんな公衆の面前で名前を叫ぼうとするんじゃあない。藤波辰爾かよ。

 あいつは不愉快な奴なんだ。
 名前を呼ぼうとしたのもワザとだろ?有名だもんな、お前のいやがらせ。
 そこにいる他の同僚にも聞こえるように言ったんだろ?本当に不愉快な奴だな。
 お前は本当に厭なタイミングで人をコケにする。
 思い出してムカついてきたよ。
 だからね、いまからお前をぶっ殺しに行くんだ。
 モンスターを血管から飲むくらいの勢いで飲んださ、爪も伸びたよ。鉄みたいに硬いしな。
 それでもおれをわが友と呼べるか?
 呼べるなら呼べよ。おれの咆哮が聞こえるのとどっちが早いか試してみようぜ。

***

キャンディーハイウェイ

 バイクの軽さが仇になるとは思っていなかったですね。
 当時のバイクとしてはパワーが無いとは言え、抜群の軽さを誇るその車体は1kgあたりのパワーで言うと排気量が倍以上あるバイクにも劣らないんです。
 つまり軽いから速いと言う事です。
 パワーが無い?なら軽さでどうにかする!そういうバイクなのです。


 でもぼくがバイパスの坂を一気に駆け上がった時、そのバイパスの繋ぎ目で小さく跳ねた拍子に前輪が取られかけたんです。
 転んで死ぬかと思いましたが、ほんの一瞬で収まりました。
 そしてぼくは再びアクセルを開けて進みました。

 転びそうになった時ほどアクセルを緩めるな、と言いいますけど心理的にそれが出来るひとってのはどれくらい存在するんでしょうか?
 バイクは仮に倒れそうになってもアクセルを開いて走れば自然と起き上がってまっすぐ進む作りになっているとは言えですよ。

 それに転んでしまった時にハンドルから咄嗟に手を放せる人間ってのもいないでしょう?
 肉体は衝撃に備えて緊張するんですから、手を開くってのはその真逆の行為だしどう考えたって実行できるとは思いません。
 しかし脱力していれば怪我をしないと言うのに、いざと言うときは緊張してしまう肉体ってのもふざけた話だと思いませんか。
 自動的に意識を遮断して勝手に脱力してくれたらよいのに、失神するのが少し遅いですよね。
 あんがいと脳味噌も役に立たないもんです。

 それにバイパスを走っていると思うのは、四階くらいの高さにいる訳でそっから外壁にぶつかって飛んだらかなり綺麗に飛ぶんだろうなと言う事です。
 むかし親父の友達が平地で事故った時は、信号を飛び越えて距離にして50mは飛んだと聞きました。
 さらに高いところで事故ったら凄く良く飛ぶのでしょうね。
 そりゃあ胸などを強く打って死亡もします。受け身とかそういう話じゃあありません。
 

 しかし参りますね。
 さっきからギアが蹴っても蹴っても下がらないんですわ。
 パワーバンドに併せて、ってアクセルが戻らないんです。クラッチも切れません。
 これは参りました。
 カーブを曲がれませんよ、これじゃあ。
 ハンドルから手を放すべきですかね?どうせ転ぶんです。
 転ぶと言うか激突するのですが。

 あぁ、さっきあんなエナジードリンク飲むんじゃなかった。何がフルスロットルだ。冗談じゃあない。止まれないなぁ。参ったなぁ。

 それではみなさん、さようなら。

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