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【短編小説】無意味なファイティングポーズ=前屈み勃起Life

 セックスがしたい。
 それは体液のやり取りだけじゃない。視線だとか言語、または時間の共有でいい。
 俺をここから出してくれ。
 見えない世界から掬い上げてくれ。
「こんにちは」
 俺の目の前に立った男に女が挨拶をする。
 俺は壁を向いてバンテージを巻く。俺は俺が見えない事実を受け止められない。だからその現実から目を背ける。
 人生はクソだ。
 俺はと言う存在もクソだ。
 俺みたいな見えない男たちに挨拶をする。俺たちはまるで心霊スポットの悪霊みたいになる
「お前は俺が見えるのか」
 その瞬間に射精しちまうのさ。
 それは比喩だ。
 細い系を全力で引いちまう。
 糸は簡単に切れる。
 繰り返して死ぬ。


 握りしめた右手の中で陽茎が脈打った。
 近所の病院に向かう救急車が引っ切りなしに走り回っているのが聞こえる。暴走族の改造バイクが奏でるアクセルミュージックが響く。
 自死と死と生が高速回転している。
 画面の中で微笑む女は確かにビデオの向こうから画面のこちらに向かって微笑んでいるが、それは俺だけの為に向けられた微笑みでは無い。
 誰も俺に微笑まない。
 人生はクソだ。少なくとも俺のは。
 画面の向こうで女が白濁を浴びる。その白濁は俺の白濁じゃない。その絶頂は俺の絶頂じゃない。
 人生はクソだ。


 スマートフォンが震える。
 女の顔にメッセージが覆いかぶさる。
「おい五十野、野球やろうぜ」
 俺はうんざりしている。
 人生はクソだ。
「やだよ、お前ピッチャーやりたがるんだもん、っていうかお前おれ以外に友だちいねーのかよ」
 もうお前の球を受けるのもいい加減に飽きたし、大した上手くいかないバッティングの言い訳に頷くのも飽きたんだ。
 俺たちはもうガキじゃない。
 グローブがひとつしか無いなら、もうひとつ買うか野球をしない選択をするんだ。
 交代もしない。
 お前が自慢げに投げる変化球は草野球でだって通用しない。
 人生はクソだ。恐らくお前の人生も。

 
 街が気狂いの開放治療場だと言うのなら学校や会社なんて言う箱は何なのだろうか。
 その箱の中で居場所を確保できなかった奴らはその先、どこに行っても居場所なんて確保できない。
 場に合わせられない奴らが適材適所を叫びながら狂っていく。
 誰からも見えない人生。
 クソそのものだ。
 やがて自分すら見えなくなる。
 その自分が見えなくなる呪いは解けない。誰からも見えないからだ。
 愛のあるキスで目が覚める事もある。
 だが見えない奴にどうやってキスをするんだ?
 人生はクソだ。


 俺たちは街を徘徊する幽霊だ。
 見えないんだからな。

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