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【小説】イカロス、ライト兄弟、ガガーリン、俺

「本物のインドカレーだよ」
 と言って新装開店のチラシを配る男と目があった。
 確かに俺はナマステの国から来た人間にナマステの国から来た人間と間違われることもある。その前は島人に島人と間違われたし、メキシコ人にメキシコ人だと思われたり通りすがりの知らない黒人に挨拶をされることもある。
 しかしだ。
 本物のインドカレーと言われたところで俺にはそれが本物かどうかなんて判別は付かないのだ。知っている。韓国人や中国人が海外でジャパニーズレストランを開くように、ネパール人だとかスリランカ人がインド料理やインドカレーを騙って店を出している。
 しかし旨いカレーは旨いカレーであって、本物のインドカレーかどうかは正直な事を言うと割とどうでもいい。どの国の人間だってちゃんとしたスシを求めていないように。
 俺はそのチラシをスルーして足を進め、安っぽいメイドコスプレの衣装を着た女の前を横切る。
 やる気の無い呼びかけを横目で見つつ、顔面の造形だけは綺麗だなと思っていた。
 その数メートル先にギャル居酒屋どーすか、とスマホをいじりながら呼び込みをしているギャルもやり過ごす。
 少し歩いた先にある中華料理屋の赤い暖簾をくぐり、俺はルース―焼きそばと餃子のセットを頼んだ。タイルの床はベタベタしており、厨房ではハイミーの巨大な缶を派手に扱っていてとても安心できる空間だった。
 煙草を咥えるより先に出てきた灰皿はまだらに汚れていて、雑な汚れすら俺をリラックスさせた。
 だがそれは緊張の前の弛緩に過ぎなかったのだ。

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