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【短編小説】ホーム・ホーマー・ホームレス pimp your Bum

 乾いた土地の雪はやはり乾いている。
 真っ直ぐ落ちることの無い雪は風に弄ばれながらレンガ造りの建物に当たって弾ける。
 火をつけて間も無い煙草がもう半分を灰にしている。燃焼促進剤だとさ、人生にも無いもんかね。
「ドラッグだろ」
「言えてるな」
 ヴィクターが真っ赤な目で笑う。指の間でジョイントが燃えている。
 腹が減ったって、だからまたお前はそうやって太るんだ。


 ヴィクターと二人、FCUKのTシャツに麻原彰晃がプリントされている事について、チカチーロと並べて良いものかを話しながら歩いていると、ニューベリーストリートの終わりにバムが座り込んでいるのが見えた。
 幾重にも重ね着した薄いアウターは擦り切れて穴が空いている。今にもセントラル・ドグマが露出しそうだったが、ひどく乾燥した土地だからか日本のホームレスの様に不愉快な粘質の臭いがしなかった。
 いや、単に寒いからと言うだけかも知れない。


「不慣れなお前に教えてやるが」
 ヴィクターがジョイントを吸い込んで、肺胞の隅々まで煙を行き渡らせるのを見ていた。
「あれは演技だよ、ワザとやってるんだ」
 パープルヘイズを吐きながらそう言った。
 ヴィクターが力の無い目で笑う。
 ファック。


 あれは慈善団体が用意した保護宿の抽選にあぶれた奴だ、そして通行人の──主にお前みたいな何も知らないアマちゃん──の憐れみを狙って、ああ言う感じで寒風吹き荒ぶ中で座ってるんだ。
 夜になれば最初から地下鉄の駅で眠るのは決まってる。
「あそこは案外と暖かいもんだよ、ネズミとさえ仲良くできればな」
 ヴィクターがクソ全てのクソ単語のクソ合間にファックと言うクソ素敵なクソ形容詞をつけながらクソ喋るのをクソ拝聴して歩く。


 ヴィクターの話を聴いて、ポケットの中にあるクォーターを摘みかけた指を緩めた。
 だけど座り込んだバムはこちらを見ると
「ジョイント、売ってくれよ。煙草でも構わない」
 と言った。
 バムは街や電車で見る疲れた労働者と同じ目をしていた。それはもしかしたら逆なのかも知れない。疲れた労働者たちが、バムと同じ目になっている。


「な?あいつらは食うに困ってねぇんだ、できればクスリと酒が欲しい。最悪でも煙草ってところだ」
 バムが小銭の入ったプラスチックカップを揺らす。
 乾いた雪がカップの中に吸い込まれていく。
 シャンシャン、と鳴る。
「ヘイ、ピープル。ヘルプ」
 救いが欲しいのはこっちだって同じだよ。それが燃焼促進剤であれ拳銃であれな。

 ファッキンクリスマスはまだファッキン先だ。
 ファッキン救いはファッキンどこだろう。

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