【短編小説】危ないので
がらんがらん、と錆っぽいベルが鳴った。
ドアの方に目を向けると男がひとり立っている。店員が声をかけるより先に私を見つけて手を挙げた。
手刀を切る様にして、やや不明瞭な事を言いながら席に着くと、店員を呼んでハッキリと「コーヒーを、アイスで、お願いします」と注文した。
そう言う喋り方だと言えばそうだろう。
しかしそれは違和感となっていつまでも耳の奥で転がり続ける。
私はレコーダーを取り出して机に置くと、やや早口で「それでは録音を開始します」と言った。
意地悪かな、とも思ったが男はじっとレコーダーを見ながら「はい」と頷いた。まるで私はそこに居らず、レコーダーと会話をしている様にも見えた。
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