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どれが本当の私なんだろう。

私は双極性障害という病気で、朝と夜に必ず薬を飲む。双極性障害とは、気分が酷く沈む鬱状態と、気分が高揚する躁状態を交互に繰り返す精神疾患である。そのため、気分が上がりすぎたり下がりすぎたりするのを抑えるため、安定剤が処方される治療が多い。

鬱状態の時の私は、外に出るのが怖くなる。誰かに会うと、「今は何してるの?」と聞かれたくないことを聞かれたり、「なんだ、元気そうじゃん」と軽々しく言われたりするのが怖くて、人に会うのが怖くなる。また、希死念慮が強くなり、電車に乗ったり建物の高いところに言ったりするのが怖くなることもある。呼吸が浅くなって息苦しくなることもあり、「外出先で苦しくなったらどうしよう」という不安も生まれる。そのため、鬱状態の時は引きこもりがちになる。食事もあまり摂らないので、体重も落ちていく。そんな期間が1〜2ヶ月ほど続く。

かと思えば、ある日突然躁状態にひっくり返る。「あーもー知らない!なんでもやっちゃえ!」とヤケになって、とんでもないことをしでかすのは、大抵が躁状態の時である。私は特にお金に感情をぶつけてしまうことが多く、ライブのチケットを大量に買って、いろんな所に遠征しまくり、1ヶ月分の少ないお給料を全て使ってしまったりする。また、躁状態の時に後先考えずに美容整形に手を出し、アルバイトで稼いだ大切なお金を全て使ってしまったこともある。"ハイな状態"というと楽しそうに聞こえるかもしれないが、中には散財しすぎて借金をしたり、他人からの信用を失ったりすることもある怖い症状である。

それらの症状を抑えるための安定剤であるが、私は現在、外来で処方できる限界量の安定剤を飲んでいる。これ以上薬を増やすなら入院も視野に入れてくれ、と言われている状態だ。

それなのに、私の気分の波は無くならない。

些細なことで酷く落ち込み、その反動でヤケになって大胆な行動に出てしまう。鬱状態で発言がネガティブになったり、躁状態で他人に対して攻撃的になったりしてしまう。

最大量の薬を飲んでいてこれなのだから、薬を飲んでいなかったら今頃どうなっているだろうかと恐ろしく思う。もしかしたら、人からの信用を失うようなことを起こして、ひとりぼっちになっていたかもしれない。自殺未遂でも起こして入院する羽目になっていたかもしれない。薬がどこまで効いているか分からないけれど、飲んでいても波があるのだから、飲んでいなかったらとんでもないことになっていたのかもしれない。

だけど時々、どれが本当の私なんだろうとぼんやり考えることがある。

鬱状態の時の私は本当の私なんだろうか。
躁状態の時の私は本当の私なんだろうか。
安定剤を飲まずに気分が上下している状態が本当の私なんだろうか。
安定剤で感情を抑え付けられた私は本当の私なんだろうか。

どれも私だけど、どれも私じゃないと思えてしまう。

私にとって"本当の私"というのは、鬱状態にも躁状態にもならない、双極性障害を患う前の私のことを指す。だけど今の私は毎日薬でコントロールされていて、自分の本来の感情の動き方ではない気がする。そんな私は、本当の私ではないのではなかろうか。

それなのに、まわりの人間には"双極性障害を患い、薬でコントロールされている今の状態の私"が、まるで本当の私のように見られてしまう。鬱状態でネガティブな発言をしているのも本当の私だと思われてしまうし、躁状態で攻撃的な発言をする私も本当の私だと思われてしまう。そんなの私じゃないのに。昔の私だったら、そんな発言しなかったはずなのに。

それは私だけど、私じゃないのにな。
病気と薬に操られた私がやったことなのにな。

そう叫びたいけど、他人には全部私の所業に見えてしまう。それが悲しいし、分かってもらえないことがもどかしい。

双極性障害になる前の"本当の私"はどこに行ってしまったんだろう。もう戻ってくることはないのだろうか。ちょっとやそっとのことじゃ負けたり泣いたり怒ったりしなかった頃の私に、もう一度戻りたい。


自分の書いた言葉を本にするのがずっと夢です。