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書記の読書記録まとめ

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今までに読んだ本についてのレビュー。 ブクログ:https://booklog.jp/users/9512a62a15b04973
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2021年8月の記事一覧

書記の読書記録#260「学際的創薬科学論」

石川智久「学際的創薬科学論」のレビュー レビュー静岡県立大学の教授陣による創薬化学の教科書(おそらく学内の指定教科書として作成したのだろう),題名の厳つさとは裏腹に内容は至って普通。内容としては,各薬剤の開発経緯や構造活性相関,標的への結合様式,薬物動態について簡単にまとめたようなものとなっている。論文を収集する前にざっと眺めておくと良いだろう。 もくじ1 序論 2 末梢神経系作用薬(カルベジロール,ソリフェナシン) 3 中枢神経系作用薬(モルヒネ,アリピプラゾール,ドネ

書記の読書記録#259「スタンダード所得税法」

佐藤英明「スタンダード所得税法」のレビュー レビュー司法試験などに出てくる「租税法」のうちの一分野である「所得税法」についての入門書。 もくじChapter1 所得税の基礎  Ⅰ 所得の概念  Ⅱ 課税単位  Ⅲ 所得税額算出手順の概観  Chapter2 所得分類  Ⅰ 利子所得と配当所得  Ⅱ 譲渡所得  Ⅲ 給与所得と退職所得  Ⅳ 事業所得等  Chapter3 所得計算の通則  Ⅰ 所得の年度帰属  Ⅱ 収入金額と必要経費  Ⅲ 所得の人的帰属 Chapter4

書記の読書記録#258「内臓の発見」

小池 寿子「内臓の発見」のレビューと読書記録 レビュー内臓をめぐる美術史または医学史のエッセイ,軽く読める本だと思う。キリスト教図像学の内容を含む。雑誌「SPAZIO」連載の「身体をめぐる断章」のまとめ+書き下ろし。 もくじ第1章 不信の手 第2章 剥皮人体 第3章 愚者の石の切除 第4章 子宮の夢想 第5章 目という神話 第6章 内臓―人体のモノ化 第7章 肝臓の不思議 第8章 体液の驚異 第9章 血液の神秘 第10章 心臓のさらなる神秘 読書記録# 1p3〜71 ・

書記の読書記録#257「ゲノム創薬科学」

田沼 靖一(編集)「ゲノム創薬科学」のレビュー レビュー低分子医薬品に加えバイオ医薬品の創薬手法を含めた解説書。インシリコの手法,薬物の基本事項についても触れられている。 もくじ1.創薬科学の新潮流 [田沼靖一] 2.創薬標的分子の探索 [佐藤 聡] 3.薬物-標的分子の相互作用 [横山英志・秋本和憲] 4.理論的ゲノム創薬手法 [吉森篤史] 5.低分子医薬品の創製 [倉持幸司] 6.バイオ医薬品の創製 [原田陽介] 7.ファーマコインフォマティクス [山西芳裕] 8.創

書記の読書記録#256「症例問題から学ぶ生理学」

鯉淵 典之 (監訳)『症例問題から学ぶ生理学』のレビュー 原著:Linda Costanzo:"Physiology Cases and Problems, Fourth Edition" レビュー代表的な病態について生理学から説明できるようになるための教科書で,問題集の一つとして用いると良いと思う(教科書は別に必要とする前提)。 もくじ1 細胞および自律生理学  症例1 透過性と単純拡散  症例2 容積モル浸透圧濃度、浸透圧、浸透  症例3 ネルンストの式と平衡電位

書記の読書記録#255「有機医薬分子論」

周東智「有機医薬分子論」のレビュー レビュー北海道大学大学院教授による創薬化学の教科書であり,必要な知識である有機化学や生化学,薬理学,薬物動態学などについて幅広く触れられている。最終章では,「オルメサルタンメドキソミル」「アリスキレン」「ナテグリニド」の開発について解説される。 もくじ序章 化学構造に基づく薬理活性の理解 第1章 創薬化学的思考法 第2章 創薬化学の基礎 第3章 化学構造と薬理活性 第4章 タンパク質の有機化学 第5章 創薬標的分子としての酵素 第6章 

書記の読書記録#254「世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」」

木村 泰司「世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」」のレビューと読書記録 レビューおおむねタイトル通りのレベル感で,高校の世界史を履修していればほとんどが知っている内容ではないだろうか。 読書記録・アルカイック・クラシック・ヘレニズム・エトルリア・ローマ美術・初期キリスト教・ロマネスク・ゴシック・ルネサンス・北方ルネサンス・国際ゴシック・ヴェネツィア派・ファンテーヌブロー派・マニエリスム・バロック・オランダ絵画・フランス古典主義・第2ヴェネツィア・ロココ・新

書記の読書記録253「物理のためのベクトルとテンソル」

ダニエル・フライシュ「物理のためのベクトルとテンソル」のレビュー レビュー物理を記述するのに欠かせない,ベクトル解析とテンソル解析の参考書。本書のレベルは広くとられており,力学の初歩から一般相対性理論までカバー可能である。 中でも,第4章にある「共変ベクトル」と「反変ベクトル」の違いについての解説が優れていると思う。 もくじ1 ベクトル 2 ベクトル演算 3 ベクトルの応用 4 共変ベクトル成分と反変ベクトル成分 5 高いランクのテンソル 6 テンソルの応用 本記事の

書記の読書記録#252「アルゴナウティカ」

アポロニオス・ロディオス「アルゴナウティカ」のレビュー レビュー本作は「金羊皮」と「アルゴー船」の伝説に基づいた英雄叙事詩であり,トロイア戦争よりも一世代前の舞台設定である。現存するヘレニズム時代の作品として重要,中でもメデイアの恋の描写は後世への影響が大きい。 本記事のもくじはこちら:

書記の読書記録#251「苦海浄土」

石牟礼道子「苦海浄土」のレビュー 「戦後文学の現在形」収録。 レビュー本書は,「苦海浄土」「神々の村」「天の魚」の,いわゆる水俣三部作を全て収録したものである。 水俣病に関する活動について示されている文学作品で,複数の視点を活用することにより物語としての強度を上げている。単なる事物の羅列にとどまらない,著者の編纂の底力が見える。事実と情動のバランス感に優れる,稀有な作品であろう。 描かれる世界というのはまさに地獄の底に等しく,その中で闘う人々の美醜がつまっている。ある

書記の読書記録#250『電磁気学』『電磁気学演習』(砂川)

砂川重信『電磁気学』『電磁気学演習』のレビュー レビューマクスウェル方程式の導出までが,本書の主な役割であり,入門書としては定番のものである。電磁気学に必要なベクトル解析について,本書では要所で示されている。 演習の方は,一応テキストに沿った順番を取っているが,応用問題が多めでレベル感に差があるかもしれない。『電磁気学』の演習ならもう少し簡単でも良いと思う。 著者といえば「理論電磁気学」が有名で,こちらはマクスウェル方程式から始まる(一般的には中級者以上向けとされる)。

書記の読書記録#249「バロック音楽」

皆川 達夫「バロック音楽」のレビューと読書記録 レビューバロック音楽というと,バッハやヘンデルなどの後期バロック音楽ばかりが有名であるが,ルネサンスからの変化を捉えるためにはさらに前に遡る必要がある。本書は一通りの知識を軽く確認するのに良いと思う。 読書記録# 1p3〜128 ・鍵盤楽器:チェンバロ,ピアノ,オルガン・弦楽器:ヴィオール,ヴァイオリン,リュート・オペラ・モンテヴェルディ・スカルラッティ・ナポリ楽派・オラトリオ # 2p129〜301 ・カンツォーナ,リチ

書記の読書記録#248「グリフィス電磁気学Ⅰ」

D.J. グリフィス「グリフィス 電磁気学 I」のレビュー レビュー北米を中心に広く使われているテキストとされており,第Ⅰ巻では数式の導入から始まりマクスウェル方程式まで扱う。数式の説明の丁寧さや教育的配慮のある例題の多さを考えると,初中級者向けと言える。(※邦訳では演習の解説はついていない) もくじ第1章 ベクトル解析 第2章 静電気学 第3章 ポテンシャル 第4章 物質中の電場 第5章 静磁気学 第6章 物質中の磁場 第7章 電磁気学 付録 A 曲線座標

書記の読書記録#247「ビッチマグネット」

舞城王太郎「ビッチマグネット」のレビュー レビュー舞城王太郎の作品の中では大人しい方ではあるものの,根底から滲み出るバイオレンスと讃歌はいつも通りのようだ。されど生を謳歌,というのは私の好みだ。 複雑な家族構成というのが本作のポイントで,ある種の処世術を教示しているとも取れる。「精神の成長と自立」とは,要は他者を他者と見做すという,一見自明の論理に気づくことではないだろうか。 少し前の純文学に見られるような「愛と暴力」あとは取ってつけたような不条理は,ありきたりではある