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本やビデオで学ぶ人気バンド再結成術③ 「121212 ニューヨーク、奇跡のライブ」

 ロック誕生以降、数多くのバンドが解散~再結成を行ってきているが、成功するためにはノウハウが必要。
 私も過去にロックバンドのマネージメントをし、数年後に再結成も担当、様々な問題・課題を解決・克服して幸いにも成功を手に入れた。
 その時に参考になったのは私がこれまでに見て・読んでいたビデオや書籍であった。
 ここではバンド再結成を担当する読者に向けて、私が有益だと感じた情報をお届けしたい。


私がドキュメントを好きな理由

 私はドキュメントが好きだ。音楽系に限らずドキュメントを積極的に観る。その理由は”リアル”であるという事なのだろう。
映画やアニメは映像に盛り込まれた作り手の意図や誘導を感じることが多く、時にそれが受け入れがたいほどおそまつなメッセージや表現と感じる時が多く、自然とそうした意図を感じないドキュメントを選んでしまっているのだと思う。
 もちろんドキュメントにも編集している監督の意図が入るわけだが、映像の中で話している人間たちは台本も無く、演技指導も入っていない映像だから好きなのかもしれない。

この映画は・・・

 私がこの映画を知ったのは映画館だったと思う。何かの映画を観に行った予告編で流れたこの映像は私の”ドキュメント好き”をくすぐった。
 大型台風がNYを襲い、大きな被害が出たその3週間後に信じられない数の大物ミュージシャン達がマディソンスクェア・ガーデンに集まりチャリティライブを開催するのである。
 その中心となったのはマディソンスクェアの会社の会長とエンタメ会社の社長、そして映画プロデューサー(この人のちに性犯罪で捕まる問題人物だった)の3人。
それぞれが得意な「会場」「TVメディア」「映画」のノウハウを使って驚くべきスピードでイベントを開催する事になるのだが、ライブが開催されたのはハリケーンからわずか3週間後である。
 映画としての公開は翌年の10月なので、ライブ開催から12か月後になるのだが、これだけの出演者だと出来上がった映像の確認や、権利関係の許諾などを取るのも大変な時間と労力が必要だと思う。
 映画として完成させ、パッケージ化させたのも私からすると想像できないほどハードルの高い事である。

この映画から学ぶべきポイントは

 あなたが音楽関係者、特にアーティストマネージメントに携わる人間であるならこの映画からイベントをどう作り上げていくのか?という点で数多くの学びを得ることができると思う。
 なぜなら、中心となった3人はその道のプロであり、最短で目標に向かうためにどう動くべきかを映像の中で示している。
「キャスティング」「セットリスト(共演)」「募金の集金方法」「ステージノ転換中の使い方(放送対策)」など、上げたらきりがないほどの問題をどんどん解決して3週間後に開催しているのだ。
 被災した人たちを救済するためのライブなので、”できる限り迅速に開催する”という目的に向かって突き進む姿は時に怒号を交えながらだが凄まじいエネルギーだ。
 しかし、それもそのはずである。考えてみて欲しい、もしあなたがローリング・ストーンズ、ポール・マッカートニー、ビリー・ジョエル、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトンに出演してもらうイベントを開催するとしたらその準備に何日必要だろう?
1年?、半年?、3ヶ月?・・・彼らは約20日ほどで準備して開催しているのである。(本当に驚異的だと思う)
 逆算すると、台風から数日で企画が生まれ、すぐにアーティストに出演をオファー。その数日後にはキャスティングを決定し、リハーサルを行うのである。
言い過ぎと思われるかもしれないが、正気の沙汰ではない。このライブを企画した3人は狂ってるとしか言いようがない。しかし、開催し、成功したことも事実なのだ。
 ライブが開催されたのは2012年12月12日なのでライブのタイトルは「12 12 12」。
このタイトルを決め、ロゴを作り、グッズを発注。
 出演者のキャスティング、舞台セットの設計・制作、リハーサル場所の確保・スケジュール調整、ライブのセットリスト制作など、考えたらキリがないほど多くの事を決定していかなければならない。
 そして、いよいよ本番。TVの生放送も始まり順調にライブは進むのだが、オンラインで受け付けていた募金システムにアクセスが集中、サーバーに負荷がかかり処理が進まない。
このライブはチャリティが目的なので、放送中に募金してもらわなければならないのだが、それができないという事は致命的なことなのである。
そこを奇跡的な方法で解決するのだが、どうやって解決したのかは映像で見て欲しい。

ベースとなる知識

 この映像を見る前に知っておいてほしい知識としてアメリカの興行のやり方は日本のやり方と違うという事だ。
 日本はアーティスト側が各地のイベンターに連絡を取り、イベンターが会場を確保しライブを行うが、アメリカのメジャーなアーティストの場合は、アーティスト側が全興業の券売総額の80%~90%ほどの金額でプロモーターに興行権を売るのが一般的だ。
 そうすることによってアーティストは収入が保証され、チケットセールスに費やす時間と労力を節約できるのだ。
 興行権を買ったプロモーターは自分達で会場を確保するのではなく、会場に興行を買ってもらい、ライブを開催する。つまりチケットセールスのリスクを負うのは最終的には会場側となる。
 そういった背景があるので、今回の会場となったマディソンスクェア・ガーデンもただの会場ではない。自分達で興行を運営し、中継できるためのカメラや放送設備の会社を持ち、プロバスケットとアイスホッケーのホーム会場でもあるアグレッシブな会社なのである。
 その会場の会長が知り合いのTVと映画のプロデューサーと企画したのがこのライブだ。
だから会場も確保できたし、ライブ収録も会場側のスタッフが使えただろうし、TV放送もスムーズに実現できている。
 ドキュメントの撮影は、当初はPマッカートニー側の撮影隊と、もうひとつの撮影隊の2チームで撮影が始まったそうだが、途中で両者が協力して撮影することになったそうだ。
 映画を観てもらうと分かるのだが、アーティストが出演してパフォーマンスするに際し、権利関係をクリアしなければならない場面がいくつか出てくるのだが、彼らはその場で必要な関係先に連絡を取り許諾を取るのである。
これを日本で出来るか?断言しよう、無理だ。

この映画の中であるアーティストが他のアーティストと一緒に歌うにはどこかの許諾を取らなければいけないシーンが出てくる。日本では書面を用意し許諾を取るのに数日かかるだろう。しかし、この映画の中ではリハーサル中に電話をかけ、リアルタイムで許諾を取るべく動くのである。
 このスピード感があるから彼らはこのライブを成し得たのだとつくづく思う。
 出演者だけでも豪華なこのライブ。チャリティが目的なのでアーティストに出演料は出てないだろう。だから実現できたのかもしれないが、実現させる事ができたのはこうしたエネルギーを持った中心人物たちが居たからなんだと思った映画であった。
時期にもよるがamazon primeやNETFLIXで見れる時もあるのでチェックしてみる事をお薦めする。

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