本田靖春『複眼で見よ』より
”いつのころからか、世はグルメばやりだという。そのこと自体に文句はないが、ブームに乗って調理人が喋々と能書を並べたてる昨今の風潮は、テレビなどで見ていて目に余るものがある
職人に能書きは必要ない。自分の手がけた仕事がすべてである。黙って良い仕事を心掛けていればそれでよい。訊かれたら、そのとき初めて、出過ぎない範囲で答える。それが職人の慎みというものであろう。
ところが、客よりいばりくさって、一皿ごとに能書どころか講釈まで垂れるアホがいる。それを拝聴している客も客で、私ならタダ