見出し画像

服部正也著 ルワンダ中央銀行総裁日記

独立ルワンダの夢を叶えた銀行員


中公新書『ルワンダ中央銀行総裁日記/増補版』のアマゾン・レビューを昔書いたんですが、今みたら何故か消えていたので、ここに書いときます。

画像1

実は以前 金融機関に勤めていたことがあります。
そのとき融資の研修があって、講師がいいました。
「銀行員の仕事は『夢を叶える』ことです。
 新しい家を建てたい、子供を大学に通わせたい、
 工場を拡げてビジネスを伸ばしたい、
 そんないろんな夢を叶える手段が金融なんです」

夢を叶えるといえば、映画『素晴らしき哉、人生』の主人公
ジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュワート)も
小さな信用組合を経営していました。
建築家になって海外で活躍したいという自分の夢をあきらめ
父が経営していたちいさな信用組合を受け継ぎ
「いつか自分の家を建てたい」という貧しい人たちの夢を叶えていた。

『総裁日記』を読みながらそんなことを思い出していました。
独立してまもないルワンダ。
独立の指導者たちは"ルワンダの山々に住むルワンダ人たちが
少しずつでも豊かになってゆくこと"を望んでいます。
服部正也氏は日銀から出向した先のIMFの要請で
ルワンダ中央銀行の総裁を引き受け1965年に着任します。
日本銀行員として蓄積した知識・経験・人脈、
それにとどまらない見識・展望・正義感、
さらに時には清濁あわせのむ胆力を総動員して
独立ルワンダの夢を叶えるべく努力します。
そして、
その後の歴史の展開からすれば
本当に残念なことにほんの一瞬だったかもしれませんが、
見事にその"少しずつルワンダ人が豊かに"という夢を叶えてみせる。

服部氏の仕事の一方の側面はは中央銀行総裁として
国内の市場環境を調整して混乱を避けつつ
通貨切下げと二重為替相場の廃止を実現すること。
さらには国家財政を均衡させないと援助をしないという
IMF他を説得するために
さまざまな手段を講じて財政の均衡を実現すること。
つまりは国家レベルのもの。
もう一方はは驚くほどシンプルな仕事の積み重ねです。
普通の住宅ローンが金融政策の重要問題だったり、
自国で生産される農産物を備蓄するための
倉庫を建設するためのしくみをつくったり、
重要な輸出品である錫鉱山を経営している外国企業が
設備投資できるように乏しい外貨を割り当てたり、
軍隊が威圧感をもって効率よく国境紛争を解決できるように
装甲車を一台買うお金を工面したり…

そんな服部氏の仕事は、
IMF~中央銀行という金融政策レベルから、
コンサルティング視点が強力な市中銀行、
ジョージ・ベイリーの信用組合のような住宅金融、
そして、
ほんの数十ドルの融資で貧しい女性たちの人生を
支えることができることを証明した
グラミン銀行(ノーベル平和賞!)的
マイクロファイナンスまでをカバーする
金融グラデーションだったのでしょう。

服部氏がルワンダの夢を叶えたのはほんの一瞬だったかもしれないけれど、
"夢を叶える"という金融の本質をあらゆるレベルで実践した一人の銀行員が、そんな一瞬を確実に実現した記録として、少しでも多くの方に読んでいただきたい本だと思います。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件