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風になびくものが好き。

風になびくものが好きだ。
それらを眺めていると、心がふわりとしてくる。
風をはらんで膨らむシフォンのスカート。
ひらりと舞うリボン。
静かに揺れる朝のレースのカーテン。
鯉のぼりもいい。
尾が翻る時の、ズバン!という音は
自分の中の空気を入れ替えてくれるようだ。
風になびくものだけではなく、
ただ風に吹かれていることも好きだ。
風に背中を押されて髪がくしゃくしゃになるのも
なんだか面白いし、
向かい風におでこを洗われるのも
気持ちがいいものだ。

風になびくもの。その1.
シフォンのスカートは揺れるドレープも美しくて好き。



恥ずかしいのを承知で告白するけれど、
幼い頃の私は
風の女王さまごっこというひとり遊びを
時々していたのだった。
私は風を使いこなす風の女王。
そんな設定だった。笑
私の指先ひとつで
つむじ風も優しいそよ風も
呼ぶことができるのだ。
庭の真ん中に立ち
空を見上げながら深呼吸すると、
風がおはよう、とそばにやってくる。
さあ今日は何をして遊ぼうか。
空想の中の私は風を自由に操って、
庭の落ち葉を巻き上げたり
自分の髪やカーディガンの裾を
なびかせたりした。
私が
「風よ吹け」
と唱えるタイミングで
ほんとうに風が吹いたりしたものだから、
すっかりその気になって
風遊びに熱中していたのだ。
風は私の友だちだった。

目には見えない空気というものの
透明な流れを感じることができるのは、
私にとっては
魔法と同じくらい不思議なことだった。
何かが風になびいている様は、
風の動きが見えているということでも
あるのだろう。
風の行方を知りたくて、
目を凝らしてはもののなびく方へ
駆け出していた。

風になびくもの。その2.  何年も前に某神社で動画撮影したもの。幕がゆっくりとなびいている。noteは動画を載せられない仕様なので切り取り画像で。とてもお気に入りのシーン。



大きくなっても
風というものに惹かれ続けていて、
高校生の時に書いた小説の主人公の名前は
風美だった。
タイトルは『赤い花の丘へいこう』。
先日の実家の物置整理の時に、
この小説も発掘したのだ。
簡単なあらすじを拾ってみる。

【あらすじ】
風美はきゃぴきゃぴした級友たちとは距離を置く
ちょっとアンニュイで髪の長い大人びた女の子。休み時間には窓から空や校庭をぼんやり眺めていたりする。そんな風美は二人の男子に言い寄られた挙句、学校の裏手にある砂山の頂上に咲く赤い花を取ってきた方と付き合うと宣言するのだ。砂山なのでとても滑りやすいことを承知で言う風美。二人の思いの強さをはかりたかったのだ。
お調子者でクラスの人気者の猛(たける)と、物静かで目立たないが意志の強い健志(たけし)という、親友同士の闘い。砂山の頂上で健志が花を掴むと、猛はその花を譲ってほしいと懇願する。今までの健志ならあっさり手放していたところだが、健志はそれを拒否。本当に風美が好きだったからだ。猛は悔し紛れに健志を突き飛ばし、無理矢理花を奪い取り風美に差し出した。実は風美は健志が好きなのだが言い出せないまま、宣言した通り猛と付き合うことにした。
だがある日、猛は書き置きを残して失踪してしまう。そこで風美と健志は、、、(続く)

——というありがちな、
青春の残酷な煌めきが胸を射る物語だ。

高校生当時の原稿。
恥ずかしい気持ちを抑えて読んでみると、
懐かしさとともにいじらしさも感じられて
なんとも言えない甘酸っぱい気持ちになる。


ああ、恥ずかしいね。
余談が長くなり過ぎた。





とにかく風が好きなまま大人になった。
(吹き渡る風ばかりか、
実は音楽家の藤井風さんも好きだ)
穏やかな休日。
公園に佇んで木々を眺める。
そこへ乾いた風がやってきて、
さわさわと葉を揺らしてゆく。
その風に乗って、
私の心も秋の午後の蜂蜜色の光の彼方へ
飛んでゆくのだ。
この先に
あたたかなものが待っているような気がした。
そこへ行きたいといつも思っていた。
風に身を任せ
翼のように腕を広げ、
自分も風になびくものになって。

私は辿り着きたいのだろうか。
いや、
どこかひとつの場所に辿り着いたとしても、
また別のどこかへと
飛んでいこうとするのだろう。
風になびくものたちは、
そんな私の憧れを表しているのかもしれない。



文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。