雨の後、花を見に行く。
つかの間の晴れに気を良くして、
雨上がりの散歩に行くことにした。
そこかしこの水たまりに遠慮なく、
ばしゃん!と踏み込めるように
レインブーツをわざわざ履いていく。
『今は雨上がってますけれど
さっきまで雨でしたからね、
レインブーツでも仕方ないんですよ』
という顔をするのがコツ。
♧
雨上がりの匂いが好きだ。
湿った土と木の葉と空気の匂い。
この匂いには
ちゃんと名前がある。
『ペトリコール』
というのだそうだ。
静かな音楽を奏でる
バンドの名前みたいだ。
このペトリコールの匂いを嗅ぎながら、
雨の後の花を見に行った。
♧
紫陽花にアガパンサス、
青い花が多く咲いていた。
雨に打たれてさらに色を増している。
紫陽花のなかでは「ガクアジサイ」がいい。
萼の輪の中で咲く小さな花たちは、
雨粒の水晶を抱く石座となっている。
雨が消えるまでの限定品。
立葵の薄い花びらは
濡れた重みで下を向いている。
けれどその中から蟻が一匹這い出してくると、
小さな命が無事に雨宿りできたことに
なんとなくほっとする。
緑の葉の上に連なる雫たち。
これはただの雨水なんかじゃない。
空から贈られた雨の中の光の珠。
手のひらに乗せて
ころころと転がしたいけれど、
手を触れたとたんに儚い一滴となって
地面に吸い込まれてしまう。
だから私は写真に収めるしかない。
♧
日が延びて
いつまでも明るさが居座るから
散歩の道のりもつい、長くなる。
雨上がりの匂いを嗅ぎながら歩く
梅雨時の密かな楽しみ。
雨の後の花に向けて
シャッターをきる私を、
奇異な目で見る通りの人。
少しのバツの悪さを感じながらも
やめられない。
今しかないこの瞬間を
心と写真に残しておきたくて、
恥ずかしさを乗り越える。
たとえにやにやしていたとしても、
マスクをしている私の顔は
誰にも見えやしないのだ。
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