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バナナドライバー【ショートショートnote杯】

深夜のタクシーに乗り込むと、ドライバーはバナナだった。
「寒くなりましたねえ。」
暖房が効き過ぎる車内でバナナは言った。
「寒いのは苦手でね。でも私らのことをよく知らない人は冷蔵庫に入れたがるから。人様の家に着いた初日から冷蔵庫に直行の奴もいて。気の毒です。」
ムゥとする空気で僕は気分が悪くなった。窓を全開にして外の冷たい風を入れると、バナナがミラー越しに僕を一瞥した。
「ドライバーの暮らしはジリ貧です。このご時世、仕方ないけどね。せめて乗ってくれたお客さんは大事にしないと。」
バナナは冷気に耐えながら自分に言い聞かせているようだった。次第にバナナの黄色い皮に斑点が浮き、黒ずみ、夜の色と見分けがつかなくなってきた。
「大丈夫かい。」
僕が声をかけると、バナナの皮が頭のてっぺんから
べろりと剥けた。甘ったるい匂いが鼻をつく。車は蛇行する。
対抗車のヘッドライトが、ひしゃげた黒いバナナと僕を照らした。迫るライトの熱が僕らを暖めた。

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※11.その他 選んだ言葉は
『バナナ』『ドライバー』の2つです。

#ショートショートnote杯

文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。