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桜風に吹かれて。

桜風に吹かれていた。
街全体が淡いピンク色の霞に覆われていて、
道ゆく人の顔もぴかぴか輝いている。
みんなこの時を待っていたのだと分かる。
いつもはウォーキングおばさんしかいない公園も、今日ばかりは人で賑わっている。
青空の下で満開の桜と逢えるのは、
この日をおいて他にないだろう。
(明日からは雨予報なのだ)
冬の間の寂しい木々と同じものとは思えない。
しめし合わせたように、
辺りは花また花の連続だ。


みんな思い思いに
カラフルなレジャーシートを敷いて、
お弁当を食べたり笑ったりしている。
それほど大きな公園ではないせいか、
ここに集う人たちは
カラオケやバーベキューもせず、
お酒を飲んで暴れるような人もなく、
それなりにささやかな宴を満喫している。
そぞろ歩く夫婦連れ。
ダックスフントを抱き上げて
桜と自撮りする女の子。
精一杯背伸びをして
桜の花に小さな鼻を寄せている少年。
乗ってきた自転車を降りると、
それに寄りかかって桜を見上げながら
海苔巻き弁当をひとり食べる女性。
(私はまだその境地には辿り着けない。
ひとりを心から楽しむ人生の修行が足りない)
それぞれのお花見スタイルが好ましくて、
みんなを可愛いと思った。
私は桜の木と人のあいだをぬって
桜を撮ったり、
桜を撮るふりをして空の写真を撮ったりして
(奇異な目で見られず
おおっぴらに空写真を撮れるチャンスなのだ)
今しかない穏やかで明るいひとときを、
心の中にきちんとしまうのだった。

多くの人々が
いっせいに花を見に行く習慣があるのは、
とても素敵なことだと思う。
わざわざ見に行くのである。
桜を観るために遠出したり、
朝からせっせとおむすびを作ったりする。
桜そのものを愛でたい人もいるし、
桜とともに(桜を言い訳に?)
温かい時間を過ごしたいと望む人もいる。
こんなに微笑ましい季節があるのは
嬉しいことだ。
淡いピンク色には幸福感や穏やかさ、
ストレスを和らげる効果もあったりするから、
桜を見に行くと心がふわっとするのも頷ける。
花は心に効く。



桜の季節が終わると、
いよいよ今年の本番が始まる気がする。
だんだん力強く羽ばたいていくような。
その前にしばし優しい夢を見て、
心を整える時間を与えられた気分だ。
『桜を見る人のいる風景』の一部になった人々も
私も、
花に励まされながら
ここから飛んでゆく方角を決めてゆくのだ。




《桜の話とはまったく違う、色に関する余談》
淡いピンク色の心理的な効果に触れたけれど、
緑色にも実は意味がある。
手術室の壁の色は
今ではほとんどが緑色となっている。
それにも理由があるのだ。
興味のある人は調べてみてください。


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