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病院歯科や訪問歯科の役割はどんどん大きくなっています!

口腔は「食べる」「話す」「笑う」「呼吸する」といった日常に必要な機能をたくさんもっています。これらが障害されるとQOL(生活の質)が低下し、日常生活にも影響を与えます。そのため、生涯にわたって口腔の機能を維持することは重要です。では、私たちは最後まで歯科医療を受けることができるのでしょうか。

1. 死ぬまで元気な人は10%

東京大学の秋山先生の調査によると、最後まで自立して生活できる(死ぬ直前まで元気で過ごし、病気で苦しんだり、介護を受けたりすることがないまま天寿を全うする)男性は10.9%という報告がでています。そして19.0%は72歳頃から自立して生活できる人が激減し、70.1%は認知症などが原因でじわじわと自立生活が出来なくなります。

つまり、将来的に90%近くの人は歯科医院に自ら通院して歯科医療を受けることが困難になる可能性があります。そのような人たちには病院歯科や訪問歯科が必要になってきます。

2. 高齢者は将来歯科受診したくてもできなくなる

実際の高齢者の歯科受診状況をみてみましょう。

歯科受診状況は、70歳代をピークに80歳以降低下する

歯科医療は歯科医療費の95%強を歯科診療所で提供している。外来における歯科医療が主体となっており、受療率(2011(平成23)年から作成)(図表10)をみると、70〜74 歳をピークに減少している。一方で医科の外来も80〜84歳をピークに同様のカーブを描くが、 医科ではその受け皿として入院や施設等への入所が考えられる。全国の病院において歯科標ぼうのある病院は約2割という現状のなか、歯科診療所へ通院ができなくなる時点で、高齢者の受療機会は失われている可能性が高い。直近の歯科診療所の歯科訪問診療を含む受療率(図表11)をNDBでも検証すると、2011(平成23)年より受療率のピークは75〜79歳へと高年齢化しているものの、80歳以降低下する傾向は同様である。

2040年を見据えた歯科ビジョン(日本歯科医師会)

3. 病院歯科の必要性

病院に入院した時に歯科医療を受けることができるのはどのくらいでしょうか。

歯科がある病院は全体の20%、病院歯科がない地域もある

病院歯科医師は、医科歯科連携の要であり、さらに在宅歯科医療の後方支援や受療困難者の受け皿であるのに対して、歯科標榜がある病院は全体の2割程度に過ぎず、そのうち4割は常勤歯科医師1名の病院である。加えて図表24のとおり、全国の344医療圏のうち、約70医療圏では病院歯科がない。

2040年を見据えた歯科ビジョン(日本歯科医師会)

病院での歯科介入は在院日数の削減や術後合併症の予防に貢献する

病院で歯科医療(口腔ケアなど)を受けることができると、口腔状態以外にもメリットがあります。

入院中の口腔機能管理の徹底により、いずれの診療科においても在院日数の削減効 果が統計学的に有意に認められ、その効果は10%以上あることが明らかになっている(図表6)。また、在院日数だけでなく、抗菌剤の投与期間も縮減できるというデータもあり、病院における歯科医療、口腔機能管理の徹底 は「医療ニーズの総量の縮減」を通じて、患者にとっても、医療保険財政にとっても大きなメリットをもたらすものである。

2040年を見据えた歯科ビジョン(日本歯科医師会)

4. 訪問歯科の必要性

要介護状態になった時に歯科医療を受けることができるのはどのくらいでしょうか。

歯科治療が必要な要介護者で歯科治療を受けたのは2.4%

介護が必要となった高齢者の調査(図表 12)では、歯科医療や口腔健康管理が必要である高齢者は64.3%存在するが、実際に歯科医療につながっている割合は2.4%にとどまっているという調査結果もあり、需要・提供体制に乖離があることが課題となっている。

2040年を見据えた歯科ビジョン(日本歯科医師会)

施設入所要介護者への口腔ケアは発熱や肺炎発症の予防に貢献する

要介護者が歯科医療者の専門的な口腔ケアを受けることができると、口腔環境の維持以外にもメリットがあります。

要介護高齢者の直接的死因の上位に位置する誤嚥性肺炎は、介護、医療の現場で大きな問題として取り上げられている。
口腔ケアは口腔内さらには咽頭部の細菌数を減少させ、ひいては唾液等に含まれる 細菌数を減らし、発熱、肺炎の原因である細菌感染を予防することで、肺炎の発症を防げる可能性があることを示している。
誤嚥性肺炎は介護者等による日々の一般的な口腔ケアに加え、歯科医師、歯科衛生士による専門的口腔ケアにより、予防効果が発現することが示され、要介護菖齢者のQOLの向上に、歯科関係者が貢献できることが示唆された。

口腔ケアと誤嚥性肺炎予防(米山武義ら)

5. 最後まで診ることができる歯科医療体制が必要

超高齢社会では歯科医療に求める役割が大きくなってきています。
そのため、今求められている歯科医療のニーズとデマンドを把握したうえで、最後まで診ることができる歯科医療体制を構築していくことが重要です。
そのひとつとして、歯科医院に通院困難な高齢者に対して、入院患者には病院歯科が在宅患者や施設入所者には訪問歯科が口腔環境の維持に関わる必要があるといえます。

医療技術の進歩や社会の高齢化に伴う疾病構造の変化、急激な少子高齢化による公的医療保険制度の財政の逼迫など、歯科医療をとりまく環境も大きく変わり、歯科医療に対する国民のニーズも著しく変化している。こうした社会の変化、国民ニーズの変化を視野に入れると、歯科界にとっても多種多様な課題が存在する。この課題と対応について、「2040 年を見据えた歯科ビジョン検討会」を中心に、 真摯な議論を積み重ねた。そこには重要な課題として「高齢化への対応」「歯科医療の質の向 上と機能の強化」「新たな技術への対応」などが浮かび上がり、これまでの議論を踏まえ、今後特に取り組む重点事項を共有し、日本歯科医師会を先頭に歯科界の総力を挙げて取り組んでいきたい。

2040年を見据えた歯科ビジョン(日本歯科医師会)

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