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”全公立中学校に不登校やいじめ対応専任の「生徒指導担当教員」の配置”というニュースを読んで感じたこと

つい先日,全公立中学校に「生徒指導担当教員」を配置するとのニュースを見て「お!」と「うーん」と思いました。
取り急ぎこのニュースに接して感じたことを今回は少し書いておきたいと思います。

「いいね!」と思ったところ

まず真っ先に感じたのは「お!いいね」ということです。
「生徒指導担当教員」は担任を持たないことになっているのですが,この「担任を持たない」ということは単純に業務量の視点だけでなく,
”不登校”や”いじめ”を扱う際に「担任を持たない」ことがとても大事な立ち位置になるからです。

担任を持ちながら不登校やいじめの問題を扱おうとする時,どうしても”担任”という視点はシンプルに問題を考えにくい,いろいろな難しさをはらみます。
例えば,単純に”不登校”の要因が担任にある,という場合もあるでしょうし,そうでなくても不登校が担任の力量の問題と捉えられる環境であれば,担任は「何とかして登校してきてほしい」という思いがどうしても強くなり,結果的に本当に大切な子どもの心を置き去りにしてしまう危険性もあります。
また,いじめの問題はより複雑です。
同じクラスの中にいじめの加害,被害の当事者がいる場合も大変ですが,別のクラスであれば担任は自分のクラスの子どもの主張を聴くと心情的にどうしても肩入れしたくなる…。
そのため互いの言い分が異なった際に,担任同士の感情的な対立が起きる可能性もあります。
しかも現在のいじめはより複雑で,加害と被害がはっきりしているケースばかりではありません。高校での経験から言えば,最近の”いじめ”とされるケースはどちらが加害でどちらが被害なのか判断が難しいケースばかりでした。両者が被害を訴えるケースもかなり多かったです。
このようなケースで担任がどちらかの味方につくのか,生徒たちにとっても担任にとってもとてもセンシティブな問題となります。

そういった意味で,担任外の専門教員がいるというのは本当に理想的だなと思います。
私自身も現場で心理の資格を生かすためには”担任外”にしてほしいと何度も要望を出してきました。
なにも担任を持ちたくないというわけではありません。
そうではなくて
このような事例では,担任外の立ち位置にいることが非常に重要だからです。
本当に支援が必要なケースの多くは,実際には担任という立場でクラス全員のために動く部分と,個別支援を行う部分を同時に行うのは様々な点で難しいのです。

「うーん」と思ったところ

ただし,諸手を挙げて「素敵な制度!」と思えるかどうか,というと,やはり課題は多いだろうと思います。

これはすでに指摘されている点かもしれませんが,「生徒指導担当教員」に”お任せ”の状態になってしまう可能性もあります。
本来は”チーム学校”の一役割として活躍するのが理想ですが,学校現場の忙しさから考えるとケース会議が開かれる時間を持つことの難しさやケースの多さから,この担当教員が養護教諭と連携しつつも孤軍奮闘になる…という可能性が否定できません。

実際に私が心理の資格をもって現場にいた時には,心理の資格を持っている,というだけで周囲の先生たちは「先生がわからないことはうちらにもわからないから」と言って丸投げの状態になることがありました。
周囲の先生も故意ではないのです。
でも,それぞれの担当がある,そこに口出しはしない,という姿勢が,孤立を生む可能性もあります。
重大事案であればあるほど,チームで連携して支援をする必要性がありますから,担当教員をどう配置してサポートするのか,組織の中の問題が大きいと思われます。

もうひとつには,この「生徒指導担当教員」の質やサポート体制の問題があります。
「生徒指導担当教員」という肩書がついたとしても”充て職”である可能性があります。
昔ながらの「生徒指導」畑の先生が割り当てられる可能性もあります。
この制度のポイントはどちらといえば昔ながらの「生徒指導」よりは支援に重きを置く「教育相談」の強化のようにも記事からは読み取れます。
実際に記事にはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの連携のつなぎ役が期待されているように書かれていました。
そうするとやはり,他職種の理解も含めて,ある程度専門的な知識や経験も必要となるだろうと思います。
研修等は当然行われると思いますが,この立場になった教員もどう進めればいいのか,という戸惑いがあることが予想されます。

それから実際に非常に困難なケースの場合には,スクールカウンセラーとは別にその担当教員へのコンサルテーションが必要な場合も出てくるだろうと思います。
例えば心理職の場合には,難しいケースの際に経験のある心理士からスーパービジョンを受けることができます。
これと同様,スーパービジョンの制度,あるいは,コンサルテーションの制度を整備しないと,一教員が担う仕事としては責任や困難さが大きすぎる可能性があります。

私自身は現在,こういったコンサルテーションを担うことを進めていけたらと考えています。
近い未来に各学校の「生徒指導担当教員」と連携することができたら,私が教員を辞めて取り組みたかったことが少しできるのではないかなという
期待もあります。

ニュースを見てまず感じたことを今日は書いてみました。
これからこのニュースに注目しながら,私のできることを考えながら,気がついたことがあればまた記事にしてみたいと思っています。

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