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ヴィヴィアン・サッセンー京都国際写真祭ーKYOTOGRAPHIE 2024

京都新聞社の印刷工場跡地、地下に広がる廃墟を舞台に暗闇を照らし上げる200点以上の作品群。オランダ出身のアーティスト、ヴィヴィアンサッセンが世界に向けて提示する作品を見て感じたのは「自由の肯定」。
枠組みなんて気にせず作りたいものを自由に表現したら良いんだろうな、という前向きな感情。

ディオール、ステラ・マッカートニー、アディダス、アクネ、ミュウミュウなど一流ブランドのファッション写真も手掛ける彼女のルーツは2才から5才までの幼少期を過ごした東アフリカのケニアにあるとのこと。

彼女が「魔法のような思考の時代」 ”My years of magical thinking"
と懐古するケニアの日々。当時の記憶から派生する感情やイメージ、光と影のコントラスト、色彩の強さ、人々との関りが、サッセンの人格を形成し、作品作りに重要な役割を果たしていると。
ちょうど私自身の息子が5才なので、彼が今過ごしている環境が与える人生への影響を思わずにはいられませんでした。

私はケニアを含むアフリカ大陸を旅したことがありますが、アフリカ特有の大地のパワーは凄まじく、1カ月旅しただけでしたが日本に帰ってから日常を取り戻すのに苦労しました。
太陽の強さ、太鼓の響き、風の匂い、漆黒の闇、青い部族、赤い部族
体中が今で感じたことのない熱い何かに浸されるイメージ。

サッセンはオランダに帰国後、パラレルワールドに閉じ込められたように感じ、ケニアに恋焦がれていたとインタビュー記事で読みました。その強い憧れが自分の中に蓄積し、記憶と想像力、夢が織り交ざって形となったのが作品【Flamboya】【Parasomnia】【Umbra】ー内省的な旅ー シリーズです。

独自の視覚言語を用いるアーティストの作品は、時折私自身の理解を超えた別世界の存在になることもある中で、サッセンの作品は共感できる事象を元に昇華された作品であり、惹きつけられる。やはり「作り手」がどんな背景で育ったのか、表現のテーマは何なのか、ストーリーを知ることで一見理解不能に思えた作品であっても感情が交差することはできます。

展示自体は多岐にわたっているため、すべての紹介はできませんが、特に印象的だったのはファッションの映像作品です。

オランダユトレヒト芸術大学で写真に転向する前にファッションデザインを学び、自身もモデルとして撮られる側にいたと聞き、彼女の学びと経験があるからこそ独創的なアート作品だけでなく、コマーシャルフォトとしても一流であり、求められる存在なのだと納得しました。

サッセンはその独自のスタイルで広く知られ、従来のファッション写真とは全く異なるアプローチで高い評価を受けています。彼女のまなざしのもとでは、身体と衣服は彫刻の材料のように表現され、明るい色彩とオリジナルの背景とが組み合わされます。

展示解説より

展示は30年にわたる創作活動の足跡であり、まさにサッセンが辿った人生の記録です。彼女が切り取りたかった世界、内面から湧き出るインスピレーションを形にしたもの、緻密に考えられた構図や色彩のバランス。眩しい。

サッセンの世界に足を踏み入れ、少し自分の世界も拡張し、暗い地下から地上に上がり5月の新緑がまぶしい御池通りを歩くと私にも。切り取りたい世界が見えた気がしました。

会期は5月11日までです。
KYOTOGRAPHIE2024
ヴィヴィアン・サッセン
発行体:アート&ファッション1990ー2023

京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)

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