クレージーキャッツと『ニッポン無責任時代』(と、ちょっとしたシンクロ)
先週の土曜日になりますが、ふと見たくなってクレージーキャッツのDVDをひっぱり出しました♥
【目次】
クレージーキャッツと「クレージー映画」
再話になるかもですが、馴染みのない方のために少し……。「クレージーキャッツ」は昭和に大人気だったコミックバンド。『スーダラ節』などのヒット曲は今でも時々アレンジやカバーがされて、CMなんかで耳にします。その後メンバーの皆さんは俳優やミュージシャンとしてそれぞれ活躍されたので、バンドより植木等さん、谷啓さんといったお名前の方がイメージされやすくなっているかもしれません。
1960~70年代にたくさん作られた彼らの主演映画が通称「クレージー映画」。ジャンルとしてはナンセンスコメディでしょうか。ナンセンスというか「突き抜けた」感じのコメディで、しかも突然音楽シーンが入ったりして、言葉で説明するのが難しいです。(笑)
植木等さん(黙っていればただの古風なハンサムかも?)が演じる「無責任男」(設定や名前は作品によりさまざま)を主人公にした作品が多いのですが、彼のキャラクターは日本では珍しい……というか世界でも類がない(笑)と思われるもので、ホント独特な世界だと思います。ヒット曲の歌詞の多くを担当している青島幸男さんの色もあり、とにかく面白いです! もちろん時代ゆえの、今の感覚ではありえない描写もあったりしますけれど、それをスルーして今の窮屈な世相の中で見直すと、「ああ、こういうカウンターパンチも必要だよね」としみじみ思います。
彼らの全盛期は自分の生まれる前から始まっていたのですが、なんとなく好きで、DVDセットの一つ『無責任ボックス』が自宅にあるのでした。(タイトルに「無責任」と付く作品3本+楽曲シーン集です(^^))父も好きだったので誕生日のプレゼントにかこつけ、半分は自分が共有するために買いました。(笑)
クレージー映画の個人的なイメージは、ぼんやりと「子供の頃、土曜の午後にテレビで流れてた映画」。なぜか夜でなく昼間に放映されていたイメージがあります。記憶が正しいとしたら、(前述の通り父の好みだったので)親が見ていたのを目にしたのでしょう。週末の午後をのんびりお気楽に過ごすにはうってつけです。
…そんなわけで、先週の「土曜の午後」、お昼ご飯のあとにふと思いついて再見することに。いろいろハードだった週の週末で、ちょっとしたご褒美になりました。
「無責任男」の哲学(?)
さて、今回選んだのは定番の『ニッポン無責任時代』。1962年公開作品で、意識してませんでしたがクレージー映画第一作だそうです。植木さん演じる無責任男・平均(「『へいきん』と書いて『たいらひとし』」)の、人を食ったようなサクセスストーリー……と、まとめてしまえば「ハイそれまでヨ」なんですが(^^;)……「ンなバカなー」とツッコミ入れつつ大笑いする映画なので、ほんと言葉で説明するの難しいです!(笑)
「無責任男」は一見ハチャメチャなようで、じつはいろんな意味で「執着」がない男なんだなぁ……と今回思いました。「押しつけられるもの」をひょいとかわす意味での「無責任」で、「=自由」なんですね。その自由を保つために、手に入れたものもパッと手放してしまう。風刺に富んだ「彼なりの哲学と反骨精神」が芯にあります。豪快で常識外れだけど、デタラメじゃない。そこが「ナンセンス」や「ギャグ」で括りきれないところで、ある種の共感や憧れが生じるんです。笑いながら気持ちよく見られるのは、この「哲学」のおかげかもしれません。どろどろした「執着」がテーマになりがちな文化の中で見ると、月並みな言い方ですが「一服の清涼剤」という感じが。公開当時もそうだったんじゃないでしょうか。
レトロなインテリア、言葉と「字幕」発見
今回はいつもの面白さ以外に、セットが目の保養だと痛感しました! 以前からこの時代のビジュアル全般に魅力を感じてはいましたが、いちいちおしゃれに見えて……。当時の街並みや屋内のセット……社長室や社長の自宅がよく出てきて、当時の基準での「市民的豪華」もかわいいし、主人公の安アパートも邦画では珍しく明るい撮り方でなんかイイ。バーの内装までみんな素敵。昭和レトロ好きの方にはその意味でもおすすめです。
…そうそう、この映画に限りませんが、あの時代の邦画って台詞が早口で聞き取りにくいものが多いんですよね。レトロという意味では当時の流行り言葉とか、ちょっと意味が変わってきた言葉もあってわかりにくいことも。…で、今回初めて「字幕」があることに気づいて、邦画を「字幕付き」で見ました。…新鮮!(笑)
肯定的な意味で使う「ぜんぜん」(今はそういう使い方の時「逆説的にあえて使う」感覚がありますよね……自分だけ???)とか、「魅力がある」の意味で使われている「ミリキ」。ちょっと違和感があるけどかわいい(笑)。ソフィア・ローレンが人気だった頃の公開であることもわかりました。(マンスフィールドというのは誰だろう…調べなくちゃ☆)邦画の字幕、これからは活用したいです♪
女性キャラのドライっぷり
女性の扱いは、やはり今の基準ではちょっと違和感があります。でも実際そういう世の中で、メインの想定観客層は男性でしょうから……その反映と割り切って見るしかないですね。でも接待のシーンで「露出度の高いダンサー」が出てきたとたんに「あのニュース」が脳内で重なって、別の意味であんぐり口を開けてしまいました。「あの人たち」の感覚ってこの当時のままなんだなー……と妙に納得したりして。むしろ「これに対する違和感をおおっぴらに唱えられる世の中になった」ことを喜ぶべきかもしれません。まだまだ途上であることを痛感しますが……!
でも、クレージー映画は「水商売の女性」のドライなキャラクターづけとか(クレージー映画は全体的に女性キャラがドライなので、見ていて気楽です)、植木さんの不思議な個性のおかげで、あまりへんな方向の「下品」にはならないんです。改めて見ると脚本的にもバランスをとっていて「うまいなぁ」と思うところがあったり……うーん、勉強になります。
独特な無責任男のキャラクターについては、どこかで脚本家さんが「脚本の定石として『やってはいけない』と言われていることを片っ端からやった」みたいなことをおっしゃっていた記事を読んだ気がします。それで崩壊せず「成立させた」のはすごい……!!
タイムスリップしたり、再発見や新発見があったり……大いに堪能させていただいた鑑賞でした。
* * *
ちょっとしたシンクロ
その晩夕刊を開いたら、メンバーの一人・犬塚弘さんの写真が目に飛び込んできてビックリ。亡くなった有名人のお悔やみのまとめ記事だったんですが、「あれ、犬塚さん亡くなったのそんなに最近だっけ……?」とよく見たら、亡くなったのは昨年です。クレージーのメンバーでは最後のお一人でした。
偶然とはいえ目にしたタイミングに驚きつつ、つい数時間前に最盛期の映画を見たばかりで不思議な気持ちになりました……。
(惜別)犬塚弘さん 俳優、クレージーキャッツのメンバー[朝日新聞デジタル]
最盛期に子供だった半端な世代で、映画館でクレージー映画を見る機会はありませんでした。でも毎年お正月には、テレビの『新春かくし芸大会』でキャプテンの植木さんとハナ肇さんを当たり前のように見ていました。その後リバイバルブームもありました。きっとこれからもリバイバルブームはくるんでしょうね。
クレージー映画は未見のものがたくさんありますし、ゲストの俳優さんも田崎潤さんや有島一郎さん、松村達雄さん、浜美枝さんなど好きな方が多いです。クレージーメンバーの石橋エータローさんがしばしば女言葉を使ったり、女形(!)をするのも大好き♥ すべてが傑作ではないでしょうけれど、ときどき気楽に、こっそりと漁りたいシリーズです。(^^)
追記:書いた後にWikiを覗いたら、石橋エータローさんの女形はご本人にとって不本意であったらしいことが書かれていて、ちょっと複雑な気持ちになりました……はたから見て「似合っていて上手」でも、それが本人のやりたいこととは限らない……そういうことはいろいろなところで思い当たるだけになんとも。でも作品の中で、飄々と楽しむように演じてくださってる映像は、ファンにとってありがたい宝物です。これからも楽しませていただきます✨
Originally published at https://ushino.blogspot.com.
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