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サスメドが目指す新しい医療とは。代表上野・取締役市川の創業インタビュー

2015年に現役の医師が創業したサスメド。社名の由来であるSustainable Medicine=「持続可能な医療」を目指して、現在は不眠障害治療のスマホアプリ開発に注力しています。
今回は、代表取締役社長の上野さんと取締役の市川さんに、創業の背景や今後の展望をお聞きしました。

プロフィール

上野 太郎 代表取締役社長・医師・医学博士
精神医学・神経科学分野を中心とした科学業績を多数有し、臨床医として専門外来診療も継続。国立がん研究センター等との共同研究を主導。2015年に合同会社としてサスメド創業。

市川 太祐 取締役・医師・医学博士
医療リアルワールドデータを用いた診療上の意思決定支援、臨床開発の効率化に取り組む。サスメド創業直後から参画。名古屋市立大学客員准教授。

リスクをとってでも医療を前に進める覚悟

──起業に至った背景を教えてください。

上野:「新しい医療を自分たちで作りたい」という想いが起業の原点にあります。睡眠医療の臨床医として不眠障害患者さんを診た経験がきっかけとなりました。

日本の不眠障害治療では睡眠薬の処方がメジャーですが、実は諸外国で推奨されているのは認知行動療法などの非薬物療法です。睡眠薬には長期服用による効果の低下や副作用があるため、国外ではむしろ処方を避ける傾向にあります。しかし日本では、認知行動療法は保険外適用であり高額な治療法です。薬以外のソリューションを選択する余地がないため、結果的に睡眠薬の多剤処方も起こっています。

──日本では副作用のない治療法を選択できないのですか?

上野:一部の医療機関では導入されていますが、実際に治療を受けている患者さんは一握りに過ぎません。どうしたらこの問題を解決できるのか?と思案した先に浮かんだのが「治療用アプリ」のアイディアでした。不眠障害の認知行動療法をスマートフォンのアプリで実装できれば、より多くの患者さんに新たな治療の選択肢を提示できると考えたのです。

最初はアドバイザーとして企業と協働することも検討しましたが、企業側の経営判断によっては道半ばで開発中止となる可能性もあります。それであれば、リスクをとってでも社会実装まで自分で責任を持ちたいと考え、起業の決断をしました。

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──医療の現場で芽生えた課題意識が起業の根底にあるのですね。医師から起業家へ、全く違った畑に飛び込むことに不安はなかったのでしょうか。

上野:起業は経験のない領域ではありましたが、正直なところ大きな不安というのはあまり感じていませんでした。というのも、「リスクをとって医療を前に進める」ことを医学部卒業後からずっと実践してきたからです。

私は一般的な臨床医とは少し違ったキャリアを歩んでおり、患者さんを診ながらも、睡眠の基礎医学研究に勤しんでいました。先人が研究を経て医療をアップデートしてくれたように、私も研究者として医療に新しい風を送り込む役割を担いたいと考えたんですね。

新しいことにはリスクがつきものですが、それは研究も起業も同じだと思っています。これからは研究者とは違った形で新しい医療を届けたい──その思いが第一にあったので、起業を躊躇することはなかったですね。

これまでにない「データ」が、日本の医療を変える

──市川さんは起業当初から取締役として参画されていますが、どのような流れでサスメドにジョインしたのでしょうか?

市川:上野さんとは日本睡眠学会のワークショップで出会いました。デジタルデータに興味があるもの同士で意気投合し、後日改めてサスメド参画の誘いを受けました。サスメドが扱うデータに新しさと魅力を感じたことがジョインを決めた最大の理由です。

──どんなところに魅力を感じましたか?

市川:データの頻度と質の高さです。私は以前、健康診断のデータを扱う企業にいました。健康診断は一年に一回が基本なので、その人の健康状態を表すものでありながら、実際には低い頻度でしかデータを取れません。健診と健診の間をつなげるデータが必要であると以前から課題感を抱いていました。

不眠障害治療用アプリは毎日データを取るので頻度が高いですし、不眠障害患者さんは現状の改善を強く望まれる方が多いので、データ入力の多さや正確さという面でも質が高いです。頻度と質の高いデータが集まれば、医療に対してさらなる科学的アプローチが可能になっていきます。こういったデータは日本では誰も集めてこなかったものなので、画期的だと思いましたね。

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──データサイエンティストである市川さんの視点からみても、「不眠障害治療用アプリ」には大きな可能性があると感じられたのですね。

周囲から学び、経営者としての自分を磨き続ける

──上野さんと市川さんは起業当初からともに歩んできましたが、上野さんから見て市川さんはサスメドにとってどんな存在といえますか。

上野:市川さんは医師かつデータサイエンティストというバックグラウンドを持つ、日本においても稀有な存在です。サスメドという会社のみならず、日本の医療の将来を描く上で間違いなく重要な人材だと思っています。また、サスメドに限定すれば、事業のみならず組織運営においても欠かせない方です。

──その理由を教えてください。

上野:昔の自分は会社を存続させようとする思いが強すぎて、社員に厳しかった時期がありました。あのままだったら組織運営が危うかったと思うのですが、市川さんが間に入って組織を修正してくれたんですよね。市川さんの柔らかいお人柄と、人の意見をまずは受け止める姿勢を見て、私自身も影響を受ける部分が大きかったです。あれから徐々に自身を変化させられたと思っています。

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私は医者や研究者からキャリアが始まっているので、言葉を選ばずにいえば「世間知らず」からのスタートでした。サスメドに経験豊富なメンバーが多く集まってくれたおかげで、例えば事業開発のメンバーからはビジネス上の立ち振舞いを学ばせてもらいましたし、今いるメンバーからも日々色んなことを吸収させてもらっています。今後新たに加わってくださる方からもどんどん学んでいって、経営者としての自分を磨き続けたいと思います。

──市川さんから見た上野さんはどんな印象ですか?

市川:経営者としての上野さんは、よく「目が怖い」なんて言われていますね(笑)。目の前のことに真剣に取り組む性格がゆえに、仕事の話になると一切笑わなくなります。でも、社員の話を聞くときは一気に柔和な表情に変わるんですよ。「あ、今が医者としての上野さんなんだ」と感じる瞬間です。経営者と医者、両方の顔を持っていますし、医者としてのスキルを経営にも活かしているんじゃないかと思います。

ストレートにいえば、上野さんってめちゃくちゃ交渉がうまいんです。なんでこんなにうまいんだろうと考えてみたのですが、上野さんの専門は精神科なので、言葉のやりとりから相手の内面を紐解いていくスキルが培われているんですよね。医者として積み上げてきたスキルがあるからこそ、ここまで事業を伸ばしてこられたのだと思います。

──上野さんは現在も医師として患者さんの診察にあたっているとお聞きしました。二足のわらじを履き続ける理由を教えてください。

上野:患者さんに貢献するためには医療現場の前線に立ち続ける必要があると考えるからです。学会で情報をアップデートし、患者さんが治療を受ける現場を自分の目で見ることで、刻一刻と変わる医療の現場を肌感覚でキャッチすることができます。患者さんに貢献してこそサスメドという会社が存在する価値が生まれるので、今後も医者と経営者を並行してやっていくつもりです。

治療用アプリの社会実装の先に描く、「持続可能な医療」

──現在は30名ほどのメンバーで構成されているかと思います。仲間集めで大事にしてきたことを教えてください。

上野:「新しい医療で世の中に貢献していくことに喜びを感じられるか」を最も大事にしています。医療への貢献ができるのは決して医者だけではありません。サスメドではエンジニアも、事業開発も、それを支える管理部も、全てのメンバーが医療への貢献に関わっています。「持続可能な医療」というビジョンに誇りを持てて、やりがいを感じられる人にぜひ入ってきてほしいですね。

──それでは最後に、これからの3年間の目標を教えてください。市川さんからはデータサイエンティストとして、上野さんからは経営者としての目標をお伺いしたいです。

市川:色々なものがデータ化される時代になり、昔は紙のカルテだったものが現代では電子カルテに変わって、データとして保存・蓄積されています。ではそのデータがどれだけ患者さんに還元されているのか?というと、現在は経過を追うだけにとどまっていると私は思います。本来はデータから患者さんの癖や適性を見出してその人に合った医療を届けていくべきですが、まだまだその水準には達していません。

ここから3年は、不眠障害治療アプリを通して病気を治療しつつ、お預かりしたデータを患者さんに還元していくことを目指していきます。秘密保持の観点もありオープンな場ではお話しにくい内容ばかりではあるのですが、医療データの活用という観点で非常に面白いプロジェクトが何本も社内で走っています。データ活用の前例を我々の手で作れたなら、患者さん一人ひとりに合った医療の実現がぐっと近付くという想いで取り組んでいます。

上野:会社を立ち上げてから6年が経ち、研究開発が中心のフェーズから、いよいよ社会実装のフェーズに入ってきました。この3年は、社会実装をいかにスムーズに行えるかが肝になってきます。アプリがどれだけいいものであろうと、医療現場の負荷が高ければ使ってもらうことはできません。社会実装に向けてあらゆる基盤を整え、しっかりと患者さんに「届ける」ところまでコミットしていきます。また、治療用アプリを選択のひとつに加えるためには、我々だけではなく多くの方々の協力が必要です。サスメドのビジョンに賛同してくれる仲間を社内外に見つけて、同じ船に乗りながら事業を推進していきたいと考えています。

誰もが安心して暮らすために欠かせない「医療」を未来永劫続けていくため、これからもサスメドは治療用アプリにとどまらず、ICTを通して新しい医療の開発に取り組んでいきます。

取材・執筆/早坂みさと