見出し画像

鮨の真髄No.014 鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド

本記事は「鮨の真髄」の連載14回目です。筆者が2023年12月末に始めた、アメリカのSubstackで連載している"Spirits of Sushi"の完全日本向けバージョンです。筆者は本が大好きなので、書籍をイメージした構成でお届けします(最下部に目次を記載しています)。

本連載を読み終えたときには、必ず鮨通になっています!
ググってもSNSを開いても得られないような情報を盛り込んでいきます。

今回のチャプターより、「鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド」と称し、鮨種についてアツく語っていきます。


Chapter 5. 鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド

調味料の次は、鮨種(タネ、ネタ)について解説する。「待ってました!」という方も多いだろう。本チャプターでは、最初に「伝統的な鮨種」37種を紹介し、その後、最近出会うことが多い「モダンな鮨種」41種を解説する。膨大な情報量となるだろう。本記事は導入部として、江戸前鮨の鮨種についての歴史的な情報を整理する。

江戸時代に代表的だった鮨種は『守貞謾稿』の『後集・巻乃一』から分かる。『守貞謾稿』は1830年代に喜田川 守貞によって執筆が開始された書物で、執筆に約30年間かけられて全35巻にもなった。江戸時代風俗を知る上での必読書である。

▶国立国会図書館デジタルコレクションのリンク

『守貞謾稿』によると「江戸、今製は握り鮓なり」との記載がある。これは、握り鮨が江戸末期には江戸において一般的で人気が高い料理になっている事実を示している。そして、使用される鮨種について、次のように続く。「鶏卵焼、車海老、海老そぼろ、白魚、まぐろさしみ、こはだ、あなご甘煮」。この記載より、「最も伝統的な鮨種」とは、玉子焼き、車海老、海老おぼろ(芝海老)、白魚、鮪赤身、小鰭(コハダ)、穴子(アナゴ)であると分かる。

守貞謾稿より

ちなみに、天ぷらに用いられる魚介類についても言及があり、以下のとおりだ。「あなご、芝ゑび、こはだ、貝の柱、するめ」。つまり、穴子、芝海老、小鰭(コハダ)、小柱(青柳の貝柱)、烏賊(イカ)となる。小鰭は現代ではもっぱら鮨種として用いられ、天種では使われないので、興味深い記載だ。また、現在では野菜の天ぷらも人気を博しているが、江戸時代には事情が異なっていた。いわく、「菜蔬の油揚げは江戸にてもてんぷらと云はず、あげものと云ふなり」だ。江戸時代においては、天ぷら=魚介類であった。

余談として補足すると、現代日本において野菜の天ぷらを有名にしたのは、銀座「てんぷら 近藤」の近藤 文夫親方である。近藤親方は日本の野菜の美味しさに注目して、天ぷら料理の調理法上の要諦である「蒸し」を駆使して野菜を天ぷらならではな料理へと昇華させる試みを行った。当初は食評論家に「亜流である」と非難されたそうだが、信念を曲げずに探求した結果、食通として知られる作家、池波 正太郎氏に気に入られ、世間に受け入れられていったそうだ。池波 正太郎氏は江戸料理に精通している作家。当エピソードは、教養があり、伝統を重んじる人ほど革新の本質に触れられることも示している。

閑話休題。鮨へと戻る。

「與兵衛壽司」

そして、続いて有益な史料は、1877年(明治10年)に川端 玉章によって描かれた「與兵衛壽司」(江戸前鮨の開祖のお店)の絵だ。この絵を見ると、原初の江戸前鮨の鮨種が分かる。

一貫あたりの大きさに驚かれるだろうが、鮨種に着目して欲しい。すなわち、右上から時計回りで中心に向かって、鮎(アユ)、伊達巻き(玉子)、太巻き(干瓢・オボロ・椎茸)、車海老(クルマエビ)、鯖(サバ)の押し寿司、赤貝(アカガイ)、鯵(アジ)、細巻き(干瓢)、烏賊(イカ)の印籠詰め、鱚(キス)、海松貝(ミル貝)、小鯛(=カスゴ)、白魚(シラウオ)、鱒(マス)、小鰭(コハダ)である。

さらに、鮨研究家として有名な鮨職人である吉野 曻雄氏の注釈によると、当時他に主要であった鮨種は、鮃(ヒラメ)、針魚(サヨリ)、穴子(アナゴ)、蛸(タコ)、蛤(ハマグリ)、平貝(タイラギ)、鳥貝(トリガイ)、鮑(アワビ)、浅蜊(アサリ)、青柳(アオヤギ)、鮪(シビ、マグロ)としている。鮪(シビ、マグロ)については、江戸時代末期に登場した当時の「モダンな種」であったそうだ。言うまでもなく現代人は大好きな鮨種なので時代は変わるものである。

なお、何故か漏れているので筆者が補足するが、「鯛(タイ)」、「鰹(カツオ)」、「真梶木(マカジキ)」、槍烏賊(ヤリイカ)、蝦蛄(シャコ)、干瓢(カンピョウ)、朧(オボロ)=芝海老(シバエビ)も伝統的な鮨種である。そして、「真子鰈(マコガレイ)」も漏れているが、これは江戸時代に鮃と鰈が区別されていなかった為だと思われる。さらに言ってしまうと、鮨において極めて重要な海苔と山葵も漏れている。これらは厳密な鮨種ではないので盲点かもしれない。以上については、私の方で補足しておく。

さて、本チャプターで紹介する鮨種のリストは以下のとおりだ。

伝統的な鮨種37種

「伝統的な鮨種」として解説する鮨種は、以下の37種である。

  1. 真鯛(タイ)

  2. 春子(カスゴ)

  3. 鮃(ヒラメ)

  4. 真子鰈(マコガレイ)

  5. 鱒(マス)

  6. 鰹(カツオ)

  7. 鮪赤身

  8. 真加治木(マカジキ)

  9. 小鰭(コハダ)

  10. 新子(シンコ)

  11. 白魚(シラウオ)

  12. 鮎(アユ)

  13. 鱚(キス)

  14. 針魚(サヨリ)

  15. 鯵(アジ)

  16. 鯖(サバ)

  17. 墨烏賊(スミイカ)

  18. 新烏賊(シンイカ)

  19. 車海老(クルマエビ)

  20. 玉子(タマゴ)

  21. 海苔

  22. 山葵

  23. 蛸(タコ)

  24. 穴子(アナゴ)

  25. 槍烏賊(ヤリイカ)

  26. 蝦蛄(シャコ)

  27. 干瓢(カンピョウ)

  28. 朧(オボロ)、芝海老(シバエビ)

  29. 赤貝(アカガイ)

  30. 海松貝(ミル貝)

  31. 青柳(アオヤギ)

  32. 小柱(コバシラ)

  33. 蛤(ハマグリ)

  34. 浅蜊(アサリ)

  35. 鳥貝(トリガイ)

  36. 平貝(タイラギ)

  37. 鮑(アワビ)

モダンな鮨種41種

「モダンな鮨種」として解説する鮨種は、以下の41種である。

  1. 鱸(スズキ)

  2. 平鱸(ヒラスズキ)

  3. 間八(カンパチ)

  4. 平政(ヒラマサ)

  5. 伊佐木(イサキ)

  6. 星鰈(ホシガレイ)

  7. 九絵(クエ)

  8. 鮎魚女(アイナメ)

  9. 金目鯛(キンメダイ)

  10. 赤睦(アカムツ)

  11. 黒睦(クロムツ)

  12. 皮剥(カワハギ)

  13. 鯒(コチ)

  14. ホウボウ

  15. 鱒之介(マスノスケ)

  16. 時鮭(トキシラズ)

  17. 鮭児(ケイジ)

  18. 琵琶鱒(ビワマス)

  19. サーモン

  20. 鮪中トロ

  21. 鮪大トロ

  22. 鰤(ブリ)

  23. 鰯(イワシ)

  24. 縞鯵(シマアジ)

  25. 鰆(サワラ)

  26. 魳(カマス)

  27. 鰊(ニシン)

  28. 柳葉魚(シシャモ)

  29. 海胆(ウニ)

  30. イクラ

  31. ズワイガニ

  32. 毛蟹(ケガニ)

  33. 障泥烏賊(アオリイカ)

  34. 蛍烏賊(ホタルイカ)

  35. 甘海老(アマエビ)

  36. 牡丹海老(ボタンエビ)

  37. 白海老(シロエビ)

  38. 鮟肝(アンキモ)

  39. 帆立(ホタテ)

  40. 北寄貝(ホッキガイ)

  41. 牡蠣(カキ)

壮観ではないだろうか。それでは、次回の記事を楽しみにして頂きたい!

今後の目次構成

今後については、以下のとおり執筆していく予定です。

  1. スシの歴史

  2. スシの仕事と種類:江戸前寿司(握り鮓)、関西鮓などなど

  3. スシの用語: 鮨店を100%楽しむための重要用語集

  4. 鮨の生命線:シャリ、酢飯、鮨飯について

  5. 鮨種(タネ、ネタ)についてのマニアックすぎるガイド

  6. 鮨職人の技:包丁や鮨職人の道具について

  7. 日本が誇る魚文化: 築地から豊洲市場、そして各地へ

  8. 必訪の鮨レストラン: 東京から札幌、福岡、その他の地域まで

  9. 郷土寿司の世界: 日本の多様な寿司文化を探る

  10. 鮨と日本酒のペアリング

  11. 鮨の作法とテーブルマナー

  12. 家庭で美味しいスシを作るための必需品

  13. ポップカルチャーの中のスシ: マンガと映画

  14. スシの健康と持続可能性

  15. まとめ:スシの未来

なお、こちらがサブスタックの英語版記事になります。

それでは、今後ともよろしくお願いします!
励ましの「スキ」を頂けると、次のレシピを書く原動力になります!

#グルメ
#食事
#私のイチオシ
#自分にとって大切なこと
#飲食店
#美味しい
#寿司
#鮨


この記事が参加している募集

ご支援頂いた分は取材や執筆活動に投資します。より良い情報提供を目指します!