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大手町で蕎麦2.0を見た #MINATOYA2

 無機質なビルの灰色に大きな黒い穴が開いていた。大手町にブラックホールが開いたと思ったらそこは黒塗りの蕎麦屋。「蕎麦屋」の語感から想像する落ちついた和空間とは裏腹に、黒で統一された空間が私たちの鼓動と食欲を高ぶらせてくる

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 メニューは1000円の「冷たい肉そば」の1つのみ。これが気に入らなければ客はもう来ない。他のメニューに逃げられない、まさしく退路を断ったこの姿勢は客への挑戦だ。リピーターを期待していないはずもない。この一杯にどれだけの中毒性が眠っているのかも楽しみにしながら、チケットを買って列に並ぶ。

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 行列ができているが、回転率は高い。メニューが1つしかないのもそうだが、イスを置かない立ち食いスタイルなのも大きい。イスはないが、店の大半を占めるテーブルの中心には緑が一本存在感を放ち、高級感を感じさせる。そこまで厳しくはないが、食べるときのルールもある。写真撮影禁止会話禁止

 自分の番が来た。肉・葱・海苔・胡麻で溢れそうな蕎麦とラー油の香るつけ汁、生卵で1セット。コシの強い蕎麦はそのまま食べても美味しく、空腹にしっかりと訴えかける。つけ汁はラー油が強くむせる人もいたが、退屈な仕事で淀んだ私の身体には良い刺激となって伝わった。

 途中で生卵を加えてテンポを変える。私は麺の方に投入し、事前に蕎麦と絡めてから食べた。ラー油の刺激を卵で中和し、束の間のクールダウン。最後は器に残った海苔や葱を蕎麦湯と共につけ汁に入れて飲む。完食。

 全面黒の暗い空間は視覚を遮断し、味覚と聴覚に感覚を再分配する。立って食べることで身体の接地面をできるだけ蕎麦に集中させる。撮影の時間を与えず、会話をすることで味わうチャンスが減るのを未然に防ぐ。店内の全てから「目の前の蕎麦と向き合うこと」をメッセージとして受け取った。多分、ここまで真剣に蕎麦を食べたことはなかったと思う。

 食べ応えはあるのに胃にはもたれない。見た目は奇抜だが、午後からも仕事が待ち受けるサラリーマンにはぴったりの、大手町に誕生するべくして誕生した蕎麦屋だった。

「撮影禁止」とはありましたが、写真を撮っている人は思いのほか
多いので、気になる方は食べログからご確認ください。


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