102 経済の諸概念② 生産と付加価値

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の続きです。

前の記事では、ごく原始的な人間の生活を考察しました。この人間は日々代謝を満たすことで生活しており、自分のその日の代謝が満たされると満足して獲物を探すのをやめます。

ここで、もう1度仮定のケーススタディを行います。図の (A)は前記事の図の(A)と全く同じです。この日は午前の狩りで1,500kcalの獲物を見つけることができました。その獲物を食べることでその狩りの消費カロリーと基礎代謝を合わせた代謝のノルマ=労働価値を満たすことができたので、この人間は満足してこの日は狩りをやめ、後は静かに休んで過ごしました。

今度は(A)’を見ます。この日は午前中の狩りで2,000kcalの獲物を捕まえました。狩りの消費カロリーと基礎代謝を合わせた代謝のノルマ=労働価値は1,500kcalです。獲物中に労働価値のすべての量が実現されていているので、これを食べることで基礎代謝と労働した分のカロリーは満たされます。労働力は再生産されます。

残りの500kcalは労働力の再生産にとって余分です。この分を食べて得たエネルギーは、基礎代謝と労働以外のことに自由に使うことができます。午後に、遠くの湖に出かけて水浴びをすることもできますし、筋力トレーニングをすることもできます。ただ休んで体のぜい肉になったとしても、ある程度は将来の飢餓への備えになります。成果物のこの部分は労働と代謝以外のプラスアルファといえます。

ところで、労働価値は、人間を満水のコップに例えると、コップの水の減少分に相当しますから、労働価値の量を超えてコップに水を注ぐことはできません。別の言葉で言えば労働価値が労働価値の量を超えて実現されるということはできません。しかし、得られた獲物のこの部分は500kcalの栄養があるので何らかの価値を持つことは間違いありません。そこでこの余った部分のプラスアルファの価値のことを付加価値と呼ぶことにします。そして付加価値を自由に使うことを消費と呼ぶことにします。

付加価値のカロリーを消費することは、代謝を補う目的はないので労働価値はなく、労働にはなりません。仮に、水浴びとその往復に午前中の狩りと同じ程度の体力500kcalを消費したとして、これは労働になりません。

ところで、前章で労働とは代謝を満たす目的の行動(労働価値を持つ行動)のことと定義しました。しかし、代謝は捕えた獲物のうちの1,500kcalの部分で満たされてしまっています、それ以上の500kcalの部分は労働価値ではないので、この部分(付加価値)を得ようとする行動・得た行動を労働と呼ぶことはできません。ここでは人間が自分の投入したエネルギー以上の成果物を得ているわけで、自分以上のものを生み出すという意味で、この行動を(余剰)生産と呼ぶことにします。

この様子を図に示します。

この人間は代謝を満たす目的で狩りを行っていますが、それが労働になるのか、生産になるのか、行動している間や行動を終えたすぐの時点では必ずしも区別することはできません。成果物が代謝に使われたのであれば、遡ってその成果物の部分を獲得した行動は労働になります。図は午前の狩りを終えて昼ご飯を食べた時点を示しています。今回の消費は運動するにせよぜい肉にするにせよ、結局付加価値は代謝に使われています。したがって1日を終えた時点では、この人間が獲物をとった行動は、全量が労働になり、得られた価値はすべて労働価値となります(ところで、筋トレした筋肉やぜい肉は労働力や個体の体を増大させるので、次の日からの基礎代謝を増やします)。

付加価値と生産をさらに考察するために、図の(B)の例を見ます。これは1人の人間が、半日ごとに2,000kcal、1日で合わせて4,000kcalの獲物を捕まえたものです。この人間のこの日の労働価値は2,000kcalで、4,000kcalの獲物のうち、2,000kcalの部分に実現されています。残りの2,000kcalの部分は付加価値で、これはそれを生産した人が自由に使う人ができます。

先の例では、午後の時間に付加価値を使う(消費する)ことができましたが、今回の場合は、丸1日かけて労働したので、あとは寝る時間しか残っていません。この場合、労働の成果物は(それが物理的に可能であれば)翌日以降に持ち越すことができます。これを貯蓄ないし資産と呼ぶことにします。現実の貯蓄や資産は(特に食べ物の場合)時間とともに損耗しますし、それを管理するにも若干の消費カロリーがかかりますが、理想的には貯蓄や資産は将来にわたって価値を保存し続けます。

生産した付加価値を貯蓄や資産として保存した人間は、貯蓄や資産として保存された付加価値を将来の任意の時点で代謝や消費に使うことができます。(B)の例では、貯蓄は2,000kcalですから、理想的には基礎代謝(1,000kcal)を2日分まかなうことができます。貯蓄された付加価値を代謝に充てることによってその2日間は労働しなくても、個体と労働力を維持することができるわけです。ただ、これは代謝が労働によらず満たされるようになったわけではありません。生産の成果物が代謝に使われた時、その成果物を得るための行動は遡って労働としますので、その代謝はあくまで過去の労働の成果物によって満たされるということになります。経済の分析にあたって労働‐代謝のサイクルの意識を貫徹させることにします。


以上この記事では、自分が代謝する以上の獲物を獲得した人間を考察することによって、付加価値生産消費貯蓄といった概念を定義しました。この記事まではあくまで1人で生活する人間の経済を考察しましたが、次の記事では2人以上の人間からなる経済を考察していくことにします。

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に続きます。

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