【小説】妖怪と鬼ごっこ
ある静かな夕暮れ、私は不思議な森に迷い込んだ。そこで出会ったのは、可愛らしい小さな妖怪だった。
大きな目とふわふわの体を持つその妖怪は、見るからに愛らしい存在で、私はすぐに親しみを感じた。
「鬼ごっこしよう!」
妖怪が楽しげに提案してきた。私は驚きつつも、その無邪気な表情に心を打たれ、鬼ごっこをすることにした。
最初は私が鬼で、妖怪を追いかける役割だった。
「待てー!」
私は笑いながら妖怪を追いかけ始めた。妖怪は小さな体で素早く動き、木々の間を駆け巡っていた。だが、その愛らしい姿はまるで小動物のようで、私は追いかけるのが楽しくて仕方がなかった。
やがて、私は妖怪に追いつき、軽く触れることができた。
「タッチ!これでキミが鬼だよ!」
「わぁー捕まっちゃったー」
妖怪は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐににっこりと笑った。だが、その笑顔が次の瞬間に変わり果てることになるとは夢にも思わなかった。
「次は私が鬼だよ。」
「え…」
妖怪はそう言うと、その姿が徐々に変わり始めた。小さくて可愛らしかった妖怪は、恐ろしい形相の巨大な妖怪へと変身していった。
目は赤く光り、鋭い牙が覗いている。私は恐怖に凍りつき、身動きが取れなくなった。
「逃げなさい、逃げなければ…。力を…抑えられない…!」
その声は低く、冷たいものだった。恐怖のあまり私は叫び声を上げ、全力で逃げ出した。妖怪は巨大な姿で私を追いかけ始め、地面が震えるほどの勢いで迫ってきた。
私は全力で走り続けた。途中、木々の間を縫うようにして逃げ、川を渡り、崖を登り続けた。しかし、妖怪の追跡は執拗で、一瞬たりとも気を抜けない状況だった。
途中、私は古い建物に辿り着いた。そこは廃墟のようで、逃げ込むには絶好の場所だった。私はドアを開け、急いで中に駆け込んだ。
「ここなら…」
私は息を切らしながら、建物の中を見渡した。何とかして妖怪を振り切る方法を考えなければならなかった。
建物の中を探し回った私は、奇妙なものを見つけた。それは壁に取り付けられた巨大なジッパーだった。私は直感的にこれを利用できるかもしれないと思い、ジッパーを引いて壁を閉じた。
「これで時間が稼げる…」
私は安堵の息をついた。しかし、その希望はすぐに打ち砕かれることになる。妖怪が建物に近づくと、その巨大な手が壁に触れた。
そして、信じられないほどの力で壁を破壊し、ジッパーも無意味になってしまった。
私は次々と連続した壁のジッパーを引いて壁を閉じていったが、妖怪はどんな障害もものともせずに破壊して進んできた。
その力と恐怖に、私は絶望的な気持ちになった。
「もうダメかもしれない…」
私の心は弱音を吐き始めていた。だが、最後まで諦めるわけにはいかない。生き延びるためには、何としてでも逃げ切る必要があった。
私は再び全力で走り出し、建物の裏手にある古びた階段を駆け上がった。上階には大きな窓があり、そこから外に脱出できるかもしれない。私は窓に向かって突進し、全力で窓を開けた。
「これが最後のチャンスだ…」
私は自分に言い聞かせ、窓枠を越えて外に飛び出した。
私は何とか地面に着地し、再び走り出した。背後では、妖怪が建物を破壊しながら追ってくる音が聞こえる。
だが、私は走り続けた。恐怖が私を突き動かし、一瞬たりとも立ち止まることを許さなかった。やがて、私は森を抜け、人里に辿り着いた。
そこには、灯りが灯る家々が並んでおり、人々の声が聞こえてきた。私はその光景を見て、涙が溢れそうになった。
私は何とか命を取り留めることができたが、あの恐ろしい妖怪の姿は、今もなお私の心に深い傷を残している。
森での出来事を思い出すたびに、背筋が凍る思いだ。あの日の出来事を誰かに話すことは難しい。誰も信じてくれないだろうし、再び恐怖を思い出すのも辛いからだ。
しかし、あの森には今もあの妖怪が潜んでいるかもしれない。
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