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倍速視聴は勿体無い。93年制作 TBSドラマ「説得」

コンテンツの倍速視聴について思う事は、もちろんそれに向いたコンテンツもあるが中には淡々としたエピソードを前半に積み上げる事で最後のカタルシスが深く感じる構成に作ったコンテンツもある。そういったコンテンツは倍速視聴だと深いカタルシスを感じる事が出来ない。勿体ない。

また物語のテンポをわざと前半に冗長にさせて「タルいな」と思わせ後半、
ヒートアップさせて転調し観客に揺さぶりをかける、胸を抉るといったハイブローな作りにしているのもあり、
そういった作品は見た後、何日も余韻みたいなものでぼんやりするけど、倍速視聴だとそれを体感できない。
分かりやすい例だとたけしさんの「その男、凶暴につき」はとにかく歩いてばかりで前半、たるいのだけど、だからこそクライマックス前の路上での対白龍との銃撃シーンが不意をつかせ後頭部をバットでぶん殴られた衝撃を受ける。あれを倍速で見ていたらあのシーンでそこまで衝撃を受けない。 
今までの冗長に感じる描き方が、全てあの路上での数秒の銃撃シーンのフリだったかのような衝撃の深度。(あれが最初からドンパチやってると、観客もずっと前のめりで見ているので、そこまで衝撃は受けない)

つまりは「ふり」を倍速で流すと「落ち」を深く堪能できないので、勿体無いなあと思う。が、たまに落ちがなくて淡々と終わるような喧嘩を売ってくるようなコンテンツも無きにしも非ずだし(個人的にはそれも悪いとは思わない) 忙しい若者には強制できないが、とにかく勿体無いなと思う

1こういうのは一度、そういう感情経験をすると「こういうことか」と腹落ちするのだが(もちろん受け手の個人差はある)個人的には93年作、たけしさん事故前のTBSの実録ドラマ「説得」を2ヶ月前に見たのだが「この回想いる?」「こんな大掛かりなロケ必要?」「タルいなー」と思っていた前半のシーンが

→たけし&大谷直子夫婦の出会い&馴れ初め
→スーパーの店長として働くたけし、しかし上からの理不尽な圧に苦しむ
→家族で車に乗って日本の僻地を走る(運転たけし)
→吹雪く日本海の駅で家出した娘をたけし&大谷直子夫婦が探し出す
等々

後半の展開で「この男があんなに家族の為に全国駆け回って頑張ってきた事は
一体、何なのか。家族の為、子供の為と思ってやっている事が子供を苦しめる、 なんと皮肉なことなのか」と胸を締め上げてくる。
そして2ヶ月たった今、あのドラマで思い出すのは「こんなシーン、カットしても全然話、成立するだろ」という上記のシーンの数々なのである。そう、全ては必要であったのだ。秀逸な構成 。

今年もかなりの数の素敵なコンテンツを拝見し、中には私も倍速視聴したのもあるし、その時は「面白い!」と思っても半分以上見たことも忘れちゃったけども、 唯一、心に澱のように残っているのは一番「タルいなあー」と前半思って見たドラマ「説得」であった。そういう視聴体験ができたのは幸せだ。

ドラマ「説得」は題材もキャスティングもかなり挑戦的で、無名時代の小日向文世さん(堺雅人似)を起用しクライマックスはたけしさんと対峙させる(アウトレイジファンにはたまらん)
小日向さんの心があるような、ないような飄々とした感じ(全盛期のギラギラたけし相手に全く動じない)
が当時から炸裂して素晴らしかった。
あの当時のスターたけしVS無名小日向のドラマ史に残るような淡々芝居対決を見た時の私の胸の震えたるや!
それを未だ思い出して反芻できるのも「タルいなあ」を耐えたから享受できたものであった。
以上、「倍速視聴は作品の余韻を味わえず勿体無い」でした。これにてドロン! 

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