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命ってなんだろう...なんだろうシリーズ

私達には子供を作る資格は無い。
ずっとそう思っていた時期があった。

正直に話すと私と妻は精神的な病気を抱えた時期がお互いにあって、自分の命を大切に思っていなかった時期があった。
それどころか捨てたいと思う事の方が多く、たぶん妻もそうだったのだと思う。
自分でさえ、乗り越えられない者が命を育むことが出来るのか?は彼女と私がずっと抱えてきた疑問だった。
ただ生きているから生きる。自分で終わらす勇気がないから…私と彼女の絆は脆く儚かった。
衝突して言い合って笑いあって、明日生きてなくても誰も泣かない世界を求めているうちに、またいなくなった世界を思い混乱する脳を持っている2人だった。
長男が誕生したのは妻しか出産妊婦がいないような病院で、お医者様が『妊娠なさってますね。どうされますか?処置しますか?』と聞く、腕が良いと違う意味で噂の病院だった。
『産みます。』と妻が答えるとお医者の先生が珍しい者でも見るように妻を見て、目を伏せたあと自らを笑って詫びた。と妻は受診後私に何度も話した。
なるべく他の入院患者がいない病院を妻が望んだ結果だった。

それから9ヶ月あまりがたち、産気づいた妻は病院の二階の病室に入院した。
『あと2、3日ですね。』違う意味で名医と名高いお医者先生が話した。
病室は上へ下への体制だった。妻一人に対して4人の看護師が付いていた。
『どうしてなんだろう?要らないよね。あんなに看護師さん。』と二人で話していた。息子が無事に産まれ1週間ほど入院を続けると解って来たのだが、その時はわからなかった。

私にはなんの講習らしきものもなく。よくTVなどで見かける父親講習を楽しみにしていた私は少なからずガッカリしたが、後に驚愕する事になった。
私は普段通り働いており、仕事の帰りに妻を見舞った。お酒が好きだった妻は禁酒に長い間ガッカリしており私を羨ましがって妊娠期間中、良く嫌味を言っていた。
いよいよ産気づいたと連絡を頂き、私は病院に向かった。何度か話したり書いたこともある、息子誕生の私の持ちネタとなっているその日の出来事。
病院の廊下で心配そうに待つTVドラマの1シーンの想像。
病院に着いた私を待っていたのは【看護師さんから渡された白衣だった。】全身を消毒され、妻の阿鼻叫喚の分娩室にいきなりなんの知識もなく私は通された。
『ちきしょう、バカヤロウ!』と何かを痛みで罵る母、ただ立ちすくみオロオロする父。
そんななか息子は産声を逆さでオシリを叩かれてあげた。
医療関係者以外のものは命の意味など考える暇もなく、ただ時間だけが流れていた。やり遂げた母、あまりのリアルに放心する父、プカプカ長い間浮いていたら突然安穏から追い出された息子、全員が泣きたい気分だったし、私以外はリアルに涙を浮かべ泣いていた。
感受性の強い若い看護師さんのひとりも私の代わりに泣いてくれていたオマケもあった。
新生児用に用意された部屋の5つ並んだベッドと部屋を独占する息子、3人の専属看護師さんからいきなりモテモテである。彼は今もモテモテ街道を行く。星のめぐりだろうか?!

私は毎日仕事帰りに見に行った。
息子はとても可愛い顔をしており、私の予言を信じていなかった私の家族以外を見舞い客を驚かせた。妻も例外でなかった。
見舞った生前の私の母は自慢げに話し息子を見せる嫁に一言『うん、お兄ちゃん(私)だわ。』と一言感想したと妻は語った。
時々妻の横の病室に何人かの入院患者があったが、人目を忍び翌日にだいたい帰って行った。
私と妻は何かを察したが気付かないふりをした。

退院近くのある日、病院を訪れると優しい看護師さん達に妻がめちゃめちゃ囲まれて怒られていた。乳の出の悪かった妻は訓練の為、息子と病室で過ごしていたが、お腹が減ってむずがる息子に足りない乳の代わりにミルクティーを1回舐めさせたという。
『だって生乳100パーセントって書いてあったから…』『下手したら死んでしまいますよ!責任取れませんよ!』代わる代わる天使な看護師さん達に本気で怒られていた。
なんでか知らないけど私も怒られた。
馬鹿な親に産まれた息子はすやすやと眠っていたが、奪われるように看護師さん達に運ばれ新生児室に連れて行かれた。

命とはなんだろう…私と妻は足りない脳でそれを今も探し続けている。




ゴールデンウィークの中日に寄せて…special投稿。
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