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小説 (過去作プラス)ショートショート 猫

15年ぐらい前からある猫を飼っていた。
元々は母の姉同然の付き合いをしていた方が飼っていた猫で最期を看取った両親が誰も世話する方がいなくなり家に連れてきた。

母は猫好きでいつも家には猫がいた。
貰われてきた時は7歳ぐらいで、
雌の白黒の猫だった。
うちよりもっと田舎の古民家に暮らしていて、
床下のどこからでも出入り出来るので、
彼女(猫)は野良同然に暮らしていた。

何度か出産もしたようで、
子猫を連れていたのを、見たことがある。
と母は語っていた。

私も両親に頼まれ付き合って家に連れてきたが、
彼女は突然狭い【ゲージ】に入れられ、
3時間の自宅までの車の道中の間、
『にゃー、ニャー。』
とずっと、不安げにないていた。
私はハンドルを握りながら、
(うるさいなー。)と思っていた。
両親が変り代わる声をかけても、
決して鳴き止まなかった。
そんな強情さがある猫だった。

しばらくして避妊のため、
動物病院に連れて行くのに、
していない首輪をすることになった。

無理やり首輪をして病院に行った。
そのまま、首輪をしていたら、
彼女は2・3日して右手首と首から、
血を流して怪我をしていた。
自分で首輪を外そうと、
首輪に手を突っ込んだのだった。
再び動物病院行きとなり、

ラッパから首を出したみたいな、
ガードを付けられて帰って来た。

彼女には申し訳ないが、
連れて行った嫁以外の家族は、
みんな吹いた。

息子が生まれて帰って来ると、
警戒して遠くから守るようになった。
彼女は野良同然育ちの為、少なからず
引っかきグセがあり、
近づけさせる事は出来なかった。

世話をしていた父が入退院を繰り返すようになり、嫁が面倒をみるようになった。
息子は保育園に行くようになり、
娘が生まれた。
彼女はまた遠くから見守った。

『お父様とお母様、貴方以下の家族は、
自分より下だと思ってるみたいよ。』

嫁は少し悔しそうに微笑った。

『そんなことないだろ。』
『だって私達にはお腹見せてこないもん。』

現世話役の嫁が口を尖らせフクレタ。

ある日、彼女が病気になって、
『フラフラになっている。』と、
連絡を受け、急いで動物病院に連れて行った。
父と同じ脳の病気で、いくつかの薬を投与するぐらいしか出来ないと獣医の先生から言われた。

通常のカリカリの餌他も食べれなくなっており、
獣医の先生のアドバイスで、
子猫用のミルクや離乳食、柔らかいカウチパックの餌などを、針のない注射器で口に入れて食べさせた。嫁とふたり1週間ぐらい看病した。
子供達が心配して遠くから見守っていた。

ある日から突然、彼女の容態は良くなり、
歩いてトイレに行くようになった。
動物病院に連れて行くと獣医の先生が、
少しだけ驚きをみせた。また病気の薬を注射してもらい帰った。また1週間すると通常の状態まで回復した。

母に回復した彼女をみせると、
『良かったね。頑張ったね。』
と涙ぐみ頭を撫でた。
父の入院は長引いていた。


ある朝、心臓と腰の悪かった母がトイレで倒れてそのまま逝ってしまった。


忙しく手配した私がソファーにドサッと座ると、
彼女が寄ってきて「ニァー。」と鳴いた。
頭を撫でてやると腹を見せて転がった。


父は相変わらず入退院を繰り返していて、
何度めかの長い入院の後、
喋れなくなってしまった。

お医者様と相談して、
終末期病院に転院した。

彼女も年を取ったが大病を自力で乗り越え、
元気を取り戻していた。
はじめて息子に腹を見せたらしい。
「女子を差別している。」
嫁と娘が口を尖らせ怒った。


父が亡くなった。
弟のお見舞い後、すぐの事だったと云う。
落ち込む弟に声をかけた。
「きっとお前に会って、安心したんだよ。」
事後の相談をした。

私達実家に住む家族は、
母のときと違って覚悟を決めていた。

彼女にも話すと、
「ニャー」と鳴いて腹を見せた。


それからしばらくして、
彼女がまた病気になった。
前の時と同じように、動物病院に連れて行き、
同じように針のない注射器で餌や水を与えた。
今度は子供達も看病した。

2・3日してまた自分で歩けるようになった。
家族は皆喜んだ。

それから3日して、
早朝、私が水と餌をやりにいくと、

彼女は、
私が指定席にしている座布団の上で、
倒れていた。

その姿はまるで、空に向かって、
何かを追いかけて走っているようだった。

回復してからは、粗相もなく、迷惑もかけず。
「ニャー」と鳴いて愛想も振りまいて逝った。

享年22歳。

嫁が挨拶の為、獣医の先生にお電話で報告すると、
「猫の寿命としては長い。良く頑張って生きたと褒めてやって下さい。」
と伝えられたと子供達と泣きながら私に話した。

役所にすぐ申し込んで、
母と父も運ばれた火葬場の、
隣の動物用火葬室で頼んだ。

タオルに包まれ、保冷剤を入れた、
ダンボールを職員さんに渡す前に、
家族が1人ずつ頭を撫でた。

お骨にする事も考えたが、
ペット霊園の共同墓地に埋めてもらった。
うちに来てからは、
他の猫に接していないので、
その方が良いと皆で決めた。




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