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小説 ひよこ第17話~クリアーゲーム編2~コングと攫われた花

「今日はビッグマートにマッセと行く。」
と母に報告に行くと、土曜日の学校半ドンの昼食のあと、台所で活花の準備をしていた母は頷いた。
最近、母は趣味で知り合いのご婦人達とウチで生け花教室らしき事をしていて、先生役をしていた。

「ピンポン。」と音がしたので、
約束のマッセが来たと思い、迎えに出てみると、
薫子お姉さんだった。
相変わらずお美しい。
教室が行われる客間に案内すると、電器屋の若奥様2人とか近所の大下さんの奥さんなどが集まってワイワイしていた。ご婦人達は僕を見て、姦しく
「中学校はどうなの?。」とか口々に聞いてくる。
生け花教室は単なる口実で、本当は母の知り合いご婦人連の愚痴発表相談会だった。
適当に挨拶すると、僕は退散して客間を後にした。
「シュガソル転んでケガしねぇかな。」(本当はドロドロで放送禁止。オブラートに包んだ表現です。)
などとリビングのソファで考えていると、
また「ピンポン」と鳴った。
出てみると今度はマッセ(栗)だった。
僕らはまだ真新しい自転車に乗って、
【ビッグマート】へ出かけた。


ビッグマートのパン屋は、核スーパー・テナントの肉屋、八百屋、文房具店舗などを持つ中核施設とは別棟に立つ。間に寂れた裏通り風の通路があり、理髪店、時計屋、花屋などがあり、メインストリートに面してパン屋があった。
フランスパンをサイズを選んで買うと無料で割って間に好みのジャム・あんこなどを挟んでくれるサービスを行っており人気店だった。
今のベーカリーショップ的構造ではなく、大きな並んだショーケースの向こうに店員さん達がいるアメリカンスタイルな当時のモダンな感じで、今なら大きな移動式フードトラックみたいな店舗だった。(移動はできません。)
裏通り風に面した隣にいろんな自動販売機を並べた店があり子供達に人気で、屋根のあるアーケードの歩行者裏通りを挟み、その前に目当てのゲーム機があった。

土曜日の半ドン終わりの早めの時間帯で、先客はおらず、屋根のある路地の壁に面して真新しいゲーム機が2台置かれていた。

一台にはドンキーコングと英語で書かれており、もう一台にはディグダグとカタカナと英語で書かれていた。

僕とマッセはモノ珍しいゲーム機を顔を見合わせながら、感動の無言でしげしげと立って廻って見ていた。
ゲーム機はお客を誘うように、画面を7色に光らせながらサウンドを路地に響かせていた。

今解りやすく説明すると、低いキャッシュドデスペンサーの構造で斜めな画面があり、操作のためのジョイステックとボタンが付いている。

前に2脚づつパイプの丸椅子がプレイヤー用に置かれており、僕とマッセは放心状態で丸椅子に腰をおろした。

「やってみようか。」
言い出しっぺのマッセ(栗)がチャック式の財布をポケットから取り出しながら言った。ドンキーコングの方だった。
メーカーがつけたゲームの簡単な説明をふたりで読んで、「入れるよ。」と確認してマッセが100円玉を機械に投入した。

短いオープニング曲の後、ゲームが始まった。
斜めに成った赤い鉄骨をメインキャラクターを操作しててっぺんのゴリラが転がし落としてくる樽を飛び越えながら梯子を登り、ゴリラに攫われた姫を助けに行く。
間にハンマーがいくつか設置されていて、コレを取るとジャンプして避けるしかない樽を、叩き壊す事が決まった時間できるようになる。

僕らは下手くそで何回も樽にあたり、やられて自機を失う。3回ヤラれるとゲームオーバーだ。
一瞬も見逃さないように僕とマッセは画面を凝視する。かわりばんこに1プレイヤーゲームを2・3回プレイした。
頭の中を最新の電子音が駆けめぐっており、ジョイスティックを握った手は汗ばんでくる。
興奮でボタンを押す指は【1流ピアニスト】のように慣れるごとにどんどんと強く弾み、初プレイのアドネナリンの興奮の中、樽にあたる。下手くそだ。やられるたび僕らは照れて笑った。

気づくとプレイ待ちの子供達が遠巻きに何人か待っており、恥ずかしくなってゲームオーバーの後、僕とマッセは立ち上がって席を譲る。
同じように遠巻きになって、次プレイヤーのゲームを見る。初プレイの僕らより断然上手い。

見知らぬ同じ年頃の3人組で、慣れているのか、スイスイと登っていく。「あんな風に避けるのか。」梯子の途中で止まれば樽にヤラれない。

1面をクリアして、プレイヤーの子は友達に掌を向ける。その手を友が打つ。
たぶん彼も興奮で友と間違えたのであろう。遠巻きでのぞき込んでいた僕にも掌を向けた。迷った後、僕は軽く掌を打った。
見知らぬ彼は、気付いて少しビックリした後、ニッカリと笑った。2面が始まろうとしていた。

僕らはまた、ゲーム画面に呑み込まれていった。
漏れる電子音が脳を駆けめぐっていた。

何なんだ!コレは!。

マリオと僕は出逢った。




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(第2稿後書き追加。3へ続く。)


ドンキーコングは任天堂がアーケードゲームとして開発、販売したヒットゲーム。
記憶が曖昧でもう一台は書いている途中、もしかしたらギャラガだったかもしれない。
と思いましたがあえてそのままにしました。
とにかくドンキーコングのインパクトが強かったです。ストーリー性が解りやすく表現されていて、後の任天堂製ゲームの原型そのものでした。
ネタバレになるかもですが、怪物家庭用ゲーム機ファミリーコンピュータは「ドンキーコング」の家庭用ゲーム機での再現の為、当初は企画されたとされます。ご存知のその後の任天堂の発展はここから始まります。
ヒゲの配管工【マリオ】はその後、世界的キャラクターとなって、世界中の子供達やゲームファンに愛されます。またドンキーコング、攫われる姫ピーチも今でも大活躍です。
ただこのときはまだ曖昧に理解されていてプレイヤーキャラクターとしての認知度でした。

数々の出来事をこの後迎える私の傍らには、いつも無言のゲーム達がいて、おこがましくもともに歩んできました。
私にとってゲームは自己満足の趣味世界であり、だからこそ悲しみも喜びも内紛している架空の自己なのかもしれません。

章話はこの後、意外な展開を辿る幾つかの物語へと発展して行きます。
いつも皆様に頂くスキなどモチベーションにしつつ、上手く表現出来たら幸いです。
お読み頂きありがとうございます!。m(_ _)m






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