箱入り地蔵
な〜んか私って、道端のお地蔵さんみたい。
お地蔵様を拝むように私を拝んだところで、もちろんご利益などは微塵もありませんよ〜。
なに?なに?なに〜?!
窓口の前で不意に立ち止まる人。
微笑みながらこちらに向かってペコリ。
こんな人がたまにいる。
ほとんどがご老人なのだが、若い青年が立ち止まり、笑顔でペコリと頭を下げてきたこともある。
知り合いの誰かと間違えている?
どんな勘違いをしているのだろう?謎でしかない。
しっかりと目が合うので、私も頭を下げて一礼はするものの、どこか釈然としない。
宝くじ。テレビCMの影響なのか、販売員の私たちは「幸運の女神様」なんて、気恥ずかしくなるような呼び方をされたり、いじられたりすることがよくある。
ふざけて拝んでくる人。
パンパンと柏手を打つ人、買った宝くじを頭上に掲げて『お願いです!女神様のお力でなんとか〜!』いい大人がはしゃいでいる。
厄介なのは、真剣に拝んでくる人で、真顔で真剣なだけに狼狽えてしまう。
このようなときは、引きつり気味な曖昧笑顔でやり過ごす。
『当たりますように!って言って下さい!!』
『当たりますように!って言わないで下さい!!』
『100万円でいいから当たれー!』『1千万円だけちょーだい!』毎日毎日。人々の願望。欲望。
こんなにたくさんの願いは聞けません!私が地蔵ならそう言う。
『もうお昼だね〜、お腹空いてきたでしょ?ほら、これどうぞ!食べなさい』
ホイルに包まれた物を窓口から中に入れてきた。70代くらいの女性。面識無し。
開けてみる。おにぎりだった。
うーーん。知らない人の手作りおにぎりはちょっと…
どうしましょう。
別の70代くらいの女性。世間話をしながらバックの中をゴソゴソ。何やら探している。
『あった、あった!』手には個包装のお菓子が数種類。
『お仕事の合間に食べて!』窓口から中に放り込むように置くと、手を合わせて拝んで行く。
食べ物、飲み物の差し入れを頂くことが多い。
私の仕事。ほとんど、正面を向いて座っている。
会釈され、拝まれ、差し入れを頂く。(お供えみたい?)
(笑)ふふっ。あたしゃ地蔵か?
ならば、しかめっ面な老若男女に対しても、柔和で、そして常に穏やかな笑顔で接客いたしましょう。うんうんうん。
『連番の上から4番か5番目!!』これだけ言うと、イライラ虫に刺されちゃったお姉さんは、ムスッとした顔でそっぽを向いている。
(そんなしかめっ面でツンツンしちゃって。どーした?)
『4か5…どちらになさいます?』
返事なし。(どっち?どっちよ?決めてくれよ〜)
再び。アゲイン。
『どちらにします?』
『どっちでもいいよ、なんでもいいから早くしてよ!』
(あのぉ、こっちこそ、どっちでもいいんですよぉ)
おやおや、地蔵に向かってなんと横柄な物言いなんでしょう。
『承知しました。1.2.3.4.……』声を出して数える。
『はい。どうぞ。4番目お取りしました。当たりますように〜』
柔和に、穏やかな笑顔の接客。
ムスッとしたまま無言で受け取って行ったお姉さん。
地蔵は、あなたの幸運を祈る!!
ウソだよ〜!ベーーーーーーッ!
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