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もみぢ葉 第一話 ~艶楽の徒然なる儘                   艶楽と研之丞続き(連続短編小説)

んー、久方に、良いお天気だねえ。
少し寒いけど、布団干して、
畳みを掃いて、雑巾がけ。

案外、気持ちいいもんだよねえ。
あー、どっこいしょ。
イタタタ・・・腰だけはね、やったら、困るからね。

はぁ・・・

研之丞の奴が、書物屋ほんやに話つけてきたから、
何か、やんなきゃとはね、思ってるんだけどねえ・・・

「ごめんください」

あれ、聞いたことある声だねえ、誰だっけか・・・?

「はい、はい、お待ちを・・・」

ガラガラガラ・・・

「あ、あらぁ、どうも、わざわざ、今日は、こんなとこまで、どうしたんですかい?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつの間にか、寒くなってきたなぁ。
芝居の演目も、秋っぽく、しっぽりとした、道行物みちゆきものにしようと
座長が言ってたんだよなぁ。
また、女役かぁ・・・

そうそう、艶楽師匠、ぼちぼち、やってるかな?
立寄って見るかなぁ。
あ、しまった。井筒屋に寄って来れば、よかった。
手持無沙汰だけど、ま、いっか。

ガラ、ガラガラ・・・

「師匠、・・・あれえ? 部屋ん中、すっからかん・・・?」

まさか、引っ越したか?

「師匠、艶楽師匠?・・・あれ、これ、井筒屋の団子の包み・・・」

玄関の上がりっぷちに、遠慮がちに置かれてるんだけど。

「師匠、これ、団子、置きっぱなしですよ、師匠」
五月蠅うるさいね。まぁた、ケンさんだねぇ。なんだっていうんだい、大きな声で」
「ああ、よかった。いるんじゃねえですか。それにしても、その恰好・・・」
「たまには、たすき掛けで、掃除でもってね」

・・・へぇ、ずぼらな師匠が、珍しいなぁ。

「ああ、そうそう、団子、玄関にありましたけど」
「え?・・・あああ、それ、持っていきな」
「でも、師匠、食べないんですか?」
「それ、多いからさ、昨日も、食べたばっかりでさ」

流石に、好物も続くとね、ってとこか。

「お雪ちゃんと食べな」
「いいんですかい?じゃあ、ありがたく、頂きます」
「で、何の用だい?」
「ご機嫌伺い、へへへっ」

たすき掛けかぁ、大きな書画、描いてた頃、思い出すなぁ。

「はいはい、ご機嫌ですからっ」

師匠は、俺に顔を近づけて、ニカリと、お愛想笑いをした。

「これでいいかい?あたしゃ、忙しいんだよ。
さあ、玄関の三和土たたき、掃除するからね、どいた、どいたぁ」
「・・・わっ、そんな邪険にしますか、
まぁ、元気そうで、何より、んじゃあ、また来ます」
「はいはい」

背中を押されて、家から追い出されてしまったが。
何か、元気だったなあ。
良かった、良かった。
団子、持って帰るか。あれ、これ・・・?

もみぢ葉だ。団子の包みの結わい紐に挟まってる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ああ、お帰り」
「ほい、土産だ」
「ああ、井筒屋、なんか、多いね。どうしたの?」
「え?」
「あんた、いつも、二本しか、買ってこないじゃない。
あんたと、あたしの分だけで」
「うん、艶楽師匠から、頂いたんだ」

お雪は、目を丸くして、包みを眺めた。

「へえ、どうりで。これ、良い包みで、色々、詰め合わせてくれるやつだよ」
「そうなのか?」
「そうよぉ・・・粋じゃない、これ、もみぢ葉なんて、挟んであって」
「へえ」
「お裾分けね。きっと、気に入りが、付け届けしたヤツだよ」
「え?」

今、そんなの、いるのかな?
昔なら、いざ知らず。
・・・師匠には悪いが・・・

「やだぁ、ちょっと、これ、付け文がついてるよ」

付け文? 
ああ、包みの結わい紐の裏側に、そんなのあったんだ。
気づかなかったなあ。

「ほら、やっぱし、駄目よ。研之丞、あんた、艶楽先生に返してきて」
「ああ、でも、もう、団子、開けちまったし・・・」
「ん、もう・・・」
「お茶、淹れてくれよ」
「・・・あ、・・・うん、わかった」

そう言いつつも、
お雪の目線は、もう、色とりどりの団子をなぞってて。
艶楽師匠もそうだけど、
実は、お雪も、井筒屋には目がない。

「いいんじゃねえか?頂いたんだからさ」
「うん・・・あ、でも、付け文は・・・?」
「そうだな、どこいったっけ?あ、あった、これだ、」
「あ、あああっ・・・!!」

持ったつもりで、俺は、団子のど真ん中に
その付け文を、落としてしまった。

「しまったぁ!!」
「あああ、拠りによって、みたらし付け文になっちまったじゃないか」
「・・・すまん」
「もう、あんた、しょうがないねぇ」

急ぎ、付け文を拾い上げて、手ぬぐいで、みたらしを拭き取ってみたが、紙には染みてしまった。

「どうしよう、大事な用件だったらさぁ」

確かにそうだ。
俺とお雪を、目を合わせた。
悪いとは思ったが、染みて、文字が滲んで読めなくなったら大変だと、慌てて、その付け文を広げてみた。

「枯れ落ちぬ内に、安楽寺の山もみぢ、見に行きませう」

「これ、もみぢ狩りへのお誘いじゃない?」
「・・・やばい、これ、師匠、見てないってことだよな」

これ、男の手だ。
うーん、この文字、見たこと、あるんだけどなあ。
・・・誰だっけか?

ってぇ、ことは・・・

~続く~ 


今回から、題名を、マガジンタイトル「艶楽師匠の徒然なる儘」の中の
新しいお話という形に変えました。実質「艶楽と研之丞」の続きです。
登場人物が増えてきたので、お話毎のタイトルにしました。

ご近所で、構い合うような「長屋的つきあい」は
昨今では、もう、煩わしさが上回り、あまり、なくなっている感じですが、
私はこんな感じなら、いいなと思っています。
さても、井筒屋は、相当、儲かってるようですね。

読んで頂き、ありがとうございました。
前のお話は、こちらです。よろしかったら、ご一読お勧めです。

ちなみに、好きなハンドパン奏者さんが、偶然、同じ扉絵で、YouTube配信してます。素敵な演奏なので、ご紹介します。
良かったら、聴いてみてください。


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