ホーキンス華子

趣味で書いている小説を少しずつアップしていきます。よろしくお願い申し上げます。

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ホーキンス華子おためし小説『金山(きんざん)』(1-2分で読めます)

 『金山(きんざん)』  白い布にくるまれた、沢山の、誰かの親や子や兄弟らとともに、父親の遺体は村の講堂に横たえられていた。行くのを拒む母や幼い妹たちを置いて、孝志(たかし)は中学の終わりに一人でここへ来た。  講堂に置かれた死体は共通して金山の黒い泥で汚れており、火薬を使った時に出る硫化水素のにおいがした。崩落事故の際に人相も分からぬほど顔が潰れた者もいた中で、父の死体は腕も足もちゃんとついていた。それゆえ、遺体を一目見て孝志は思わず「ほう」と息をついた。ただ、誰も死体

    • メルカリ小説(資産家 真知子編)第二話『イヤープレート』

      メルカリでの売買の醍醐味として、商品自体に関し売り手や買い手の物語がついていることがある。そして、運が良ければその物語に触れることができる。 真知子(まちこ)は午後五時半に「本日の業務終了」の文字を共有カレンダーのチャット欄に送信し、パソコンを閉じた。真知子がパソコンを閉じるのとほとんど同時にアシスタントの石川から携帯にメッセージが入った。「社長、お疲れさまです。明日は十時に出社されるとのことですので、ご自宅まで車を回しておきます。それではまた明日もよろしくお願いします。」

      • フリマアプリ小説(育休主婦美佳編)第二話『禁止されているもの』

         美佳は法事に出席することになり、産前に着ていた黒のフォーマルウェアをクローゼットから取り出した。幸い、数回しか着用していなかったので毛玉もあまり出ていない。しかし、美佳はため息をついた。産後に体形が大きく変化していたため、妊娠前に着ていた服を着るのが怖いのだった。だが、今手元にあるフォーマルウェアはこれくらいしかない。もし服が入らず、洋服を買いに店へ行くことになり、子どもを連れて試着室に入るなど、できれば避けたい。何度かためらった後、必要に駆られて恐る恐る着てみた。一番懸念

        • フリマアプリ小説(資産家 真知子編) 第一話『利他』

           朝、真知子がポストに新聞を取りに行くと、表紙に犬の写真が載ったパンフレットが入っていた。 「もうそんな季節なんだわ」  真知子は表紙の写真を眺めながら一人呟いた。パンフレットには『アーク 夏号』と書いてある。 真知子はリビングのコーヒーメーカーでモカブレンドを淹れた。カレンダーを見ると、三月のままになっていた。カレンダーを一気に七月までめくり、壁にかけ直した。七月はひまわりの大輪と共に子犬が写っていた。コーヒーが抽出し終わると、新聞とパンフレットを再び手に取り自室に戻

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          フリマアプリ小説(お気楽大学生 香凜編)第一話『占い』その1

          「売れるな、売れるな。」 香凜(かりん)は心の中でそう願いながら、大学へ向かう地下鉄に揺られていた。大学の最寄り駅のホームに着いてから、やっとフリマアプリの出品ボタンを押した。 「今日の香凜変だよね」  というのは友人の葵(あおい)の言である。 「どこが?」  講義はとっくに始まっていた。香凜は講義の最中もスマホに通知が来ていないか、せわしなく確認し続けている。香凜のあまりの熱中ぶりに、葵はあきれ顔である。葵は右手に嵌めた指輪をすっと撫でた。 「なんでそんなに通知を気にして

          フリマアプリ小説(お気楽大学生 香凜編)第一話『占い』その1

          フリマアプリ小説

          ある日、タワマン小説というジャンルを知りました。タワマンと今の時代の融合が起きたからこその世界観が出来上がっており、とても面白いと思います。ある意味今しか書けない文章だと思いました。 同じく今の世を映す鏡である、フリマアプリを題材にした、「フリマアプリ小説」というのがあれば、面白いかなという発想からフリマアプリ小説を思いつき、実験的に小説を書いています。 「フリマアプリユーザー」という共通点を持つ、複数の主人公を入れ替わりで登場させて、連載するつもりです。 一人目:育休主

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          フリマアプリ小説(育休主婦美佳編)第一話『きっかけ』

           美佳(みか)は食材の入ったエコバッグを肩から提げてスーパーから家に帰る。交差点で信号を待っていると、視界が段々ぼやけてきた。喉がひきつるような感覚を覚え、首元に手を伸ばすと、手が濡れた。「なんだこれ」と思った。単に涙があふれているのだった。  体調が優れず、苦しかった妊娠期間を終え、美佳は無事に子どもを産んだ。しかもその子どもは健康で、夫も日中は仕事で家にいないものの協力的である。美佳は、「悲しいことなど何もない。ないはず」と心の中で呟いた。それなのに、独りでに涙が出てき

          フリマアプリ小説(育休主婦美佳編)第一話『きっかけ』