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ホーキンス華子おためし小説『金山(きんざん)』(1-2分で読めます)

 『金山(きんざん)』

 白い布にくるまれた、沢山の、誰かの親や子や兄弟らとともに、父親の遺体は村の講堂に横たえられていた。行くのを拒む母や幼い妹たちを置いて、孝志(たかし)は中学の終わりに一人でここへ来た。

 講堂に置かれた死体は共通して金山の黒い泥で汚れており、火薬を使った時に出る硫化水素のにおいがした。崩落事故の際に人相も分からぬほど顔が潰れた者もいた中で、父の死体は腕も足もちゃんとついていた。それゆえ、遺体を一目見て孝志は思わず「ほう」と息をついた。ただ、誰も死体の瞼(まぶた)を閉じてくれる者がおらず、瞳が驚いたように見開かれたままだった。

孝志は手を合わせた後、死体らしくするため父の瞼を閉じようと目元に触れた。水分を失い、くぼんだ瞼の質感に、彼が毎朝早くに家を出て仕事に行く姿が思い出された。これから家族を養わなければならない不安が胸を押しつぶし、少年は泣きたい気持ちになった。

講堂の中に老女の嗚咽が響いていた。

父の胸ポケットにわずかな膨らみを見つけ、孝志は何となくそのポケットを探った。手のひらに、お守りにしては薄っぺらい物の感覚を覚えた。取り出すと、それは紙切れだった。

広げてみると、黒炭(こくたん)で擦ったような字で、「□」と書いてあった。孝志は少し考えた後、ためらいながら遺体の口を開けた。

すると、砂岩らしきごつごつした石ころが出てきた。手の上で転がしてみると、石の表面が黄色に光った。金の原石だ。孝志は周りをさっと見回し、石ころを自分のポケットに突っ込んだ。

                    了

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